毒物混入事件から奇跡的に業界トップに返り咲いた、ジョンソン&ジョンソンの秘密
ビジネスには失敗がつきもの。
どんなに成功して見えるビジネスも実は数多い失敗を重ねた結果であることは、グローバルビジネスに携わっている皆さまであればご経験済みですよね。
失敗が起きないように様々な対策をとっても、それでも失敗は例外なく起きます。
では、会社の存続を危ぶませるような大きな失敗が起こってしまった場合、どのように対処すべきか?
危機に直面した時こそ、危機管理の担当部署や、経営層のマネージメントの力量が試されます。そして、それによって企業イメージに対するダメージの度合いは大きく変わってきます。
時には、企業のイメージをアップさせる、ビッグチャンスにさえ変えることもあるのです。
失敗をチャンスに変えるために重要な役割を果たすのが、「クライシスマネジメント(危機管理)」そして「パブリックリレーション」です。
クライシスマネジメントに更に詳しく説明されているサイトがありますのでご参考まで
ニュートン・コンサルティング株式会社
クライシスマネジメント(危機管理)
http://www.newton-consulting.co.jp/bcmnavi/glossary/crisis_m.htm
今回は、クライシスマネジメント(危機管理)の成功事例としてもっとも有名な、ジョンソン&ジョンソンの「タイレノール毒物混入死亡事件」をご紹介させていただきます。
この事件は32年前の1982年に起きた事件ですが、ジョンソン&ジョンソン社の対応は今でも語り継がれ、企業のケーススタディとしても多く紹介されています。
目先の損得勘定にとらわれない! 会社を守るために、消費者を一番に守る
タイレノール毒物混入死亡事件が発生したのは1982年。
米国で同社が販売する頭痛薬タイレノールに毒物(シアン化合物)が何者かにより混合され、7名が死亡しました。
タイレノールが、当時のジョンソン&ジョンソンの収益の25%を占めていたことから、同社の存続そのものが危ぶまれる事件となりました。
また、それだけではなく、薬局で買える薬全体の安全性に対する全米の不安をかき立てた大きな事件でした。
この大事件を、企業イメージを向上させるチャンスにつなげるために、ジョンソン&ジョンソンはどのような対応したのでしょうか?
1. 積極的かつ正直に情報を提供する
調査の結果、毒物混入が行われたのは、製品が小売店にあった時点であることがわかりました。
しかし、率直に事実を説明するにとどめ、第三者への責任転嫁を一切行いませんでした。
企業が隠蔽を行ったり、嘘をついたりすることが当たり前であった当時、この態度は非常に新鮮で、驚きであったといわれています。
最初の会見の後も、定期的な記者会見を開催したり、CEOがテレビ番組に出演し、不安に駆られている消費者に対して、積極的に疑問に答え、情報を提供することに努めました。
2. 迅速にかつ断固とした態度で対応する
同社は、最初の死亡者が確認された直後に、従業員が対応するフリーダイヤルの消費者向けの相談窓口を設置し、さらに医者のオフィス、病院、取引先にテレックスで4万5千通のメッセージを送付しました。
また、タイレノールの広告を中止するなどして、迅速に、同社が自らの利益よりも消費者の安全をも大切にしているという態度を示しました。
3. 全ての責任がなくても、全ての責任を負う対応
この事件は、完成した製品が小売店にある時点で誰かが毒物を混入させたのですから、すべてがジョンソン&ジョンソンの責任で発生した事件ではありません。
しかし、1億ドルを費やし、3200万ボトルのリコールを実施するという、FDA や FBIからみても驚きの対応を実施。
消費者の安全が何よりも大切だという姿勢を示しました。
さらには、数ヶ月後に再販売を開始する際は、新しく厳重な安全対策をとったカプセルを導入、さらには、無作為の安全性チェックを実施しています。
リコールの詳細も公表し、事件に関して従業員を教育、また、警察、FDA、FBI、毒物を混入した犯人を捜すことに積極的に協力しました。
まるでジョンソン&ジョンソンにすべて責任があったかのような徹底した責任の取り方で、自分たちが製品の安全性、そして消費者の安全を大切にしているという徹底した姿勢を提示しました。
4. 消費者の意見や利益を一番に尊重する
事件の後、被害者にカウンセリングなどのサポートを提供、さらには、消費者からの意見を取り入れるためのアンケートを実施しました。
リコール後、再びタイレノールを販売した際は、$2.50 分のクーポン(タイレノールが購入できる価格)4000万枚発行することで、事件があった際に、既に自宅に所有していたタイレノールを処分した顧客へ対応しました。
また、さらに最大で25%割引をする対処策を追加導入しました。
事件から数年後の1986年に行われた記者会見では、毒物が混入されやすいとされる柔らかいカプセルを薬局で販売するのを中止し、錠剤に変更することを発表しました。
その際に「なぜもっと早くこのような対応をしなかったのか反省していますか?」と聞かれ「申し訳ありません」とシンプルな謝罪で答えています。
より大きな絵を描き、目的を達成する
このように徹底して消費者を守る姿勢を貫いた対応をしたことで、ジョンソン&ジョンソンは、決して回復不可能だと考えられた同社のイメージを回復させることに成功しました。
再度販売を始めた後1年を待たずして、タイレノールは市場の30%を独占、再び鎮痛剤のトップの座に返り咲きました。
ジョンソン&ジョンソンにとって、この事件のクライシスマネジメント(危機管理)の真の目的は、ジョンソン&ジョンソンのイメージを回復させ、タイレノールの信頼(つまり売上)を回復させることです。
しかし、その大きな目的を達成するために、顧客(消費者)を大切にするという姿勢を様々な手段を示したからこそ、イメージと売上げの回復が成功したと考えられています。
もしジョンソン&ジョンソンが、記者会見で全面的な非を認めず(実際全て同社の責任ではないわけですから)第三者を責めるような発言をしていたら?
株価を一時的に守るための、短期的な視点の対策を行っていたら?
今のジョンソン&ジョンソンは存在しなかったでしょう。
以前ご紹介したケーススタディにPotash社のマーケット不調による、大幅な人員削減時のケーススタディがあります。
(詳細は「IRケーススタディ:会社にとって不利益な情報をどう発信するか!?」にてご覧ください)
Potash社の素晴らしいポイントの一つにジョンソン&ジョンソン同様「迅速性」があります。
そして、文書だけではなく、経営者が直接ステークホルダーに向かって、まっすぐに事実を語りかける動画を配信することで、株主のみならず従業員への安心材料を与えています。
僭越ながら、クライシスマネジメント(危機管理)があまり得意とはいえない日本企業では、こういった迅速性や経営層からの率直なメッセージが不足しているように感じます。
企業対株主である以前に、人対人での信頼関係でビジネスが成り立っていることを考えれば、嘘のない、顔の見えるコミュニケーションはとても重要であることは明確ですよね。
時代が変われど、クライシスマネジメント(危機管理)の法則は変わらないものですね。
是非、先人の素晴らしいケーススタディをご参考ください。
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Eric Jackson エリック ジャクソン
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J&Jのタイレノールに関する対応は有名なので、HBSのケースなどでも習いました。
ところで、日本では危機管理という時、Risk ManagementとCrisis Managementとが混在しています。その違いについて上記の例を使って解説していただけますでしょうか?