DeepL・生成AI・専門家、英文IRではどう使い分ける?~AI時代の英文IR実務  |  Vol.02~

―「どれが一番?」ではなく、工程で考える

DeepL、ChatGPTなどの生成AI、そして翻訳会社や翻訳者。英文IRを作成する方法が増えたことで、企業のご担当者から「結局、どれを使うのが一番よいのでしょうか?」というご相談をいただくことが増えました。

結論から言うと、英文IRでは、どれか一つに統一することが必ずしも最適とは限りません。

DeepL、生成AI、専門家のどれか一つを選ぶことが正解ではありません。「何を任せるか」「何を参照させるか」「どこを人が判断するか」を設計することが重要です。

One World Linkは約15年にわたり、日本企業の英文IRやコーポレートコミュニケーションを支援してきました。AIの進化によって変わったのは、「翻訳会社に頼むか、自社で翻訳するか」という選択肢だけではありません。いまは、それぞれの技術や専門家を、どの工程で使うかを設計することが、英文IR実務の重要なテーマになっています。

まず押さえたい:3つは同じ役割ではない

DeepL、生成AI、専門家は、すべて英文作成に利用できます。しかし、それぞれ得意なことは異なります。

01  DeepL02  生成AI03  専門家
得意:高速な翻訳・定型文・大量処理

ポイント:企業固有の用語・過去訳との接続
得意:文脈理解・再構成・柔軟な指示

ポイント:根拠・意味変化・出力の確認
得意:意図・ニュアンス・IR文脈の判断

ポイント:高リスク箇所と最終品質

01 翻訳に特化しているからこその強み

大量の文章を短時間で翻訳したり、原文と訳文を対応させながら処理したりする用途に強みがあります。また、用語集などの機能を使い、企業固有の用語や指定訳を翻訳に反映することもできます。

・定型的な文章

・繰り返しの多い開示

・大量のテキスト

・使用する用語が明確な文書

こうした文書では、非常に有効な選択肢です。一方で、ツールを導入するだけで、自社の過去開示や年度ごとの変更、経営メッセージの意図まで自動的に適切に反映されるわけではありません。「どのツールを使うか」と同時に、「何を参照させるか」を考える必要があります。

02 生成AI:柔軟さが強み

生成AIの大きな特徴は、単に日本語を英語に置き換えるだけではないことです。例えば、次のような指示にも対応できます。

・この段落をもう少し簡潔にする

・主旨を先に出す

・この用語を必ず使用する

・海外投資家にも理解しやすい構成にする

・複数の訳案を比較する

・なぜこの英語が不自然なのか説明する

英文作成だけでなく、文章を考える作業そのものを支援できることが生成AIの大きな強みです。ただし、柔軟性が高いことと、正確性が保証されることは同じではありません。英文IRでは、「自然に読めるか」だけではなく、「何を根拠にその英文が作られたのか」まで見る必要があります。

03 専門家:役割は「英語を直すこと」だけではない

AIが初稿を作れるようになったことで、専門家の役割も変わっています。以前は、翻訳者が日本語から英文を一から作成すること自体に大きな価値がありました。現在はそれに加えて、次のような「判断」の重要性が高まっています。

・原文の本当の意図は何か

・過去の開示と整合しているか

・原文より強い/弱いメッセージになっていないか

・IR文書として適切な表現か

・海外の読み手にはどう受け取られるか

・文章として読みやすいか

例えば、「目指します」「見込んでいます」「実施します」は、日本語では近い文脈で使われることがありますが、英文IRでは企業のコミットメントの強さが変わる場合があります。このような判断は、単なる文法チェックとは異なります。

文書によって、最適な組み合わせは変わる

英文IRはすべて同じ方法で作る必要はありません。One World Linkの実務では、文書の性質によって必要な判断の量が大きく異なります。

・決算短信・定型開示

過去訳や定型表現が多く、前年との継続性も重要です。このような文書では、「翻訳メモリ・用語・過去訳+AI/翻訳ツール」を活用できる範囲が比較的大きくなります。重要なのは、毎回新しい英文を作ることではなく、すでに承認された企業の英語資産を正しく再利用することです。

・決算説明会資料

定型的な部分もありますが、新しい経営施策、業績説明、見通しなども含まれます。AIや翻訳ツールを活用しながら、新規メッセージや重要な説明部分を人が重点的に確認する、という運用が考えられます。

・社長・CEOメッセージ、統合報告書

意味が正しいだけでは十分でないケースが多くあります。文章のリズム、メッセージの強さ、論理構成、読み手への印象まで含めた判断が必要になるため、専門家が関与する価値が高い領域です。AIを使えないという意味ではなく、初稿作成や文章整理に活用しつつ、最終的に「どう伝わるか」を見る工程を残すことが重要です。

「どのAIを使うか」の前に確認したい4つのこと

新しい翻訳ツールやAIを導入するとき、製品比較から始めたくなります。しかし、その前に次の4点を確認すると、必要な仕組みが見えやすくなります。

01 自社の過去訳はどこにありますか?

前年の統合報告書、決算資料、適時開示など、すでに承認された英訳は企業の重要な資産です。それを毎回探す状態なのか、すぐ再利用できる状態なのかで、AI活用の効率は大きく変わります。

02 正式な用語はどこで管理していますか?

事業名、サービス名、KPI、経営用語など。英語として正しい訳語が複数存在しても、企業として採用する英語は一つというケースがあります。

03 どこまでAIに任せますか?

すべての文章を同じリスクとして扱う必要はありません。定型文とCEOメッセージでは、必要なレビューの深さが違います。

04 最終判断を誰がしますか?

AI、翻訳ツール、外部翻訳者を使っても、最後に「この英文を会社として公開してよいか」を判断する工程は残ります。

AI時代は「ツール選び」から「運用設計」へ

英文IRの実務で避けたいのは、DeepLで作った英文、生成AIで修正した英文、前年の翻訳、社内の用語集、翻訳会社から戻ったファイルが、それぞれ別の場所にあり、最後は担当者が手作業で照合している状態です。

AIが進化すればするほど、こうした管理が重要になります。これは翻訳エンジンの問題ではなく、企業の英文IR Knowledgeをどう管理するかという問題です。

OWLBASEが目指していること

OWLBASEは、DeepLや生成AIと「どちらが優れた翻訳ツールか」を競うことを目的としたサービスではありません。

企業ごとの翻訳メモリ、用語、過去訳を活用しながらAI-assisted translationを行い、Word、Excel、PowerPointなど実務で使用するファイルを扱い、必要に応じてOne World Linkの専門家による翻訳サポートにつなげるためのプラットフォームです。

KEY TAKEAWAY

AIが得意な処理 + 企業が持つ英語資産 + 専門家が行う判断 を、一つの運用につなぐことです。

まとめ

DeepL、生成AI、専門家。重要なのは、「どれが一番よいか」を決めることではありません。文書の性質に合わせて、次の4点を設計することです。

・何をAIに任せるか

・何を過去訳や用語から参照するか

・どこを専門家が判断するか

・その判断を次回どう再利用するか

AIによって英文を作る時間は確実に変わりつつあります。だからこそこれからの英文IRでは、翻訳そのもの以上に、「企業の英語をどう管理し、継続して使うか」が重要になっていくとOne World Linkは考えています。

OWLBASEで、自社の英文IR運用を見直してみませんか?

過去訳や用語を活用したAI-assisted translationと、必要に応じた専門家サポートを一つの運用につなぐOWLBASEをご紹介しています。

参考情報

1. 東京証券取引所「英文開示実践ハンドブック」

2. DeepL Help Center「About the glossary(用語集について)」

3. NIST AI 600-1「Artificial Intelligence Risk Management Framework: Generative Artificial Intelligence Profile」

AI翻訳の英文が「自然」でも安心できない理由~AI時代の英文IR実務  |  Vol.01~

英文IRで見落とされやすい7つのリスク

生成AIや機械翻訳を使えば、英文開示の初稿は以前よりはるかに速く作れるようになりました。英文も一見すると自然です。だからこそ、いま注意したいのは「読める英語が出た=そのまま公開できる英語」と判断してしまうことです。

2025年4月以降、プライム市場の上場内国会社には、決算情報と適時開示情報について、日本語と同時に英語で開示することが原則として義務付けられています[1]。英文作成のスピードはこれまで以上に重要です。一方で、公開資料である以上、短時間でも品質を落とさない運用が必要です。

AIの「流暢さ」が、確認を難しくする

まず前提として、現在の機械翻訳もAI技術を利用しており、「機械翻訳」と「AI翻訳」を厳密に二分することはできません。本記事では便宜上、翻訳に特化した機械翻訳(MT)と、大規模言語モデルを使う生成AIを分けて説明します。近年の機械翻訳は大きく改善しており、単純に「文法ミスが多い」と一括りにするのは適切ではありません。一方、文書全体の文脈や専門分野の用語、一貫性などは依然として重要な課題です。金融分野の文書レベル翻訳を扱ったDOLFIN研究でも、文脈を考慮するモデルとそうでないモデルの差が確認され、金融テキストでは文脈を踏まえた翻訳評価が重要であることが示されています[5]。

生成AIには別の難しさもあります。NIST(米国国立標準技術研究所)は、生成AIが誤った内容を自信を持って提示する現象を「confabulation」として整理し、入力と異なる内容や事実と異なる出力、内部的に矛盾する出力が起こり得ると説明しています[4]。つまり、生成AIで英文がより自然になったとしても、「自然に読めること」と「原文・事実・企業固有ルールに照らして正しいこと」は別に確認する必要があります。

英文IRで見落とされやすい7つのリスク

以下の7つは、JPX・NIST・学術研究で確認できる一般的な論点に加え、One World Linkが英文IR、統合報告書、決算関連資料などの翻訳・校閲で繰り返し確認してきた実務上の観点を整理したものです。個別顧客の非公開情報や事例は使用していません。

1. 意味は近いのに、重要なニュアンスが変わる

AIは文脈上もっともらしい英文を作れますが、主語、因果関係、条件、時期、確実性などが微妙に変わることがあります。IRでは、例えば「目指す」「見込む」「計画する」「実施する」は同じ強さではありません。英文が自然でも、企業としてのコミットメントが原文より強く、または弱くなっていないかを確認する必要があります。

2. 数字が合っていても、財務用語や表の意味がずれる

IR資料では、数字そのものだけでなく、その数字が何を示すのかが重要です。金融・会計分野では、一般語と専門用語で意味が異なるケースや、文脈によって適切な訳語が変わるケースがあります。DOLFIN研究も、金融分野では文書レベルの文脈を踏まえた翻訳が重要であることを示しています[4]。One World Linkの実務でも、数字自体は合っていても、勘定科目、単位、年度、増減の向き、注記との対応などを原文・表・過去開示と照合して初めて気づく問題があります。

3. 会社固有の用語と過去開示が揺れる

参照すべき用語や過去訳が与えられていない場合、前年と今年、決算短信と統合報告書、本文と図表で訳語が揺れることがあります。英語として成立していても、正式な事業名、KPI、製品名、経営用語などは企業として統一されていることが重要です。JPXも英文資料の標準化と品質向上のため、開示項目や勘定科目等の日英対訳情報を提供しています[3]。AIに一般知識だけを求めるのではなく、「自社では何と呼んでいるか」という企業固有の英語資産を継続的に参照できる状態が必要です。

4. 原文より強い・弱い表現になる

生成AIは、自然な英文に整える過程で、断定を強めたり、逆に曖昧にしたりすることがあります。特に、将来見通し、目標、方針、株主還元、投資計画などでは、表現の強さそのものがメッセージです。文法上の正しさだけでは確認できません。

5. 一文ごとには正しくても、資料全体では整合しない

AI翻訳をページやファイル単位で進めると、同じ言葉が別の訳になったり、略語の初出が抜けたり、見出しと本文で用語が変わったりします。英文IRの品質は、一文単位ではなく、資料全体、さらに年度をまたいだ開示全体で見なければなりません。

6. 「自然な英語」と「投資家に読みやすい英語」は同じではない

生成AIは自然な英文を生成できる一方、指示や参照情報が十分でないと、日本語原文の情報順序や修飾関係を強く引き継いだ英文になることがあります。文法上は成立していても、結論が後ろに置かれる、主語や論理関係が曖昧なまま残る、一文に情報が詰まりすぎる、といった形です。これはOne World LinkのIR翻訳・校閲実務でも繰り返し確認する論点です。社長・CFOメッセージなどでは、意味が合っているだけでなく、読み手が一度で理解でき、企業のメッセージが明確に伝わることが重要です。

7. 最後に必要なのは「誰が品質を保証するのか」という設計

最も重要なのはここです。AIを使うこと自体が問題なのではありません。問題は、AI出力の後に「誰が」「何を根拠に」「どこまで」確認するかが決まっていないことです。用語集、過去訳、社内表記、原文、最終PDFを別々の場所で確認していると、品質管理が担当者の経験と注意力に依存しやすくなります。JPXの英文開示実践ハンドブックでも、英文開示を進めるうえで体制、人材、技術、Knowledgeの整備が重要な論点として扱われています[2]。

では、AIを使わない方がよいのか

いいえ。One World Linkでは、AIを使わないことが答えだとは考えていません。英文IRでは、初稿作成のスピード向上や繰り返し作業の削減など、AIが大きく貢献できる領域があります。

ただし、AIを導入すると「翻訳」という作業が消えるのではなく、仕事の重心が「生成」から「管理と判断」に移ります。どの過去訳を参照するのか、正式な用語は何か、原文と意味が一致しているか、数字と表記は正しいか、公開前に専門的な判断が必要か。こうした確認を毎回手作業で行えば、AIで短縮した時間の一部が後工程の確認や手戻りに戻ることもあります。

OWLBASEが目指しているのは、この「運用」を一つにつなぐこと

OWLBASEでは、企業ごとの翻訳メモリや用語、過去訳を参照しながらAI-assisted translationを進め、Word、Excel、PowerPointなどの資料を扱うことができます。また、必要に応じてOne World Linkのプロフェッショナル翻訳サポートへつなげることができます。

重要なのは、AIを人に置き換えることではありません。 AIが得意な処理、企業が蓄積してきた英語資産、そして専門家の判断を、一つの運用としてつなげることです。

まとめ

AI翻訳の品質は、出力された英文だけを見て判断することはできません。英文IRでは、意味、数字、用語、過去開示、表現の強さ、資料全体の整合性、読みやすさまで含めて確認する必要があります。

AIを使う企業が増えるほど、重要になるのは「どのAIを使うか」だけではありません。AIに何を参照させるのか、企業固有の英語資産をどう蓄積・更新するのか、そして、どの段階で専門家の判断を入れるのか。こうした運用設計が英文IRの品質と効率を左右します。

参考情報・出典

[1] JPX「TDnetによる英文開示」  リンク

[2] JPX「英文開示実践ハンドブック」  リンク

[3] JPX「日英対訳集」  リンク

[4] NIST, Artificial Intelligence Risk Management Framework: Generative Artificial Intelligence Profile (NIST AI 600-1)  リンク

[5] Nakhle et al. (2025), “DOLFIN – Document-Level Financial Test-Set for Machine Translation,” Findings of NAACL 2025  リンク

関連記事:生成AIと英文IRの正しい付き合い方(2025年)記事を読む

ドラフト作成前に考えるべきこと:ビジネスおよびIRコミュニケーションにおける目的意識

(English blog: Before You Draft: Writing With Purpose in Business and Investor Relations Communications | One World Link)

年次報告書の作成を開始するにあたり、最終的な英訳についても一度立ち止まって考えることが重要です。

日本語原稿の作成前であれば、翻訳を意識するのは早すぎると感じるかもしれません。しかし、この段階こそが、翻訳を見据えて検討する最も効果的なタイミングです。

英語の質は、翻訳者のスキルだけで決まるものではありません。構造の整った日本語原稿も同様に重要な要素です。論理的な日本語は、論理的な英語につながります。原文の構造が弱い場合、翻訳者の能力に関わらず、その影響は英語にも表れます。

本記事では、投資家向け資料を作成する前に検討すべき3つの要素、すなわち「読み手」「目的」「成果」について整理します。

1. 読み手(Audience)

まず、読み手を明確にします。誰がその資料を読むのかを特定することが重要です。

主な読み手を定義することで、レポートにおけるトーン、用語、説明の深さを適切に設計することができます。

主な読み手には、機関投資家、アナリスト、海外のステークホルダーなどが含まれ、それぞれ期待値や自社に対する理解度が異なります。一方で、レポートはグローバルの従業員など、より広い層に届く可能性もあります。

Harvard Business School Onlineの記事では、年次報告書は必ずしも金融の専門家だけを対象としたものではないと指摘されています。

「投資家でなくても、企業に勤める従業員にとって年次報告書は有益な情報源となる。自社の業績や、自身の行動が事業目標にどのような影響を与えているかを理解することで、昇進やキャリアアップの機会を自ら後押しすることができる。」

この内容はビジネススクールの学生や従業員を対象としていますが、重要なポイントは、読み手が必ずしも財務や市場分析、企業価値評価の専門家に限らない可能性があるという点です。

より幅広い読み手を想定する場合は、明確な構造と分かりやすい表現を重視する必要があります。一般的に知られていない専門用語、複雑すぎる財務用語、社内用語、説明のない略語の使用は控え、初めて読む人でも無理なく内容を追えるように情報を整理して提示することが重要です。

2. 目的(Objective)

資料が何を達成すべきかを明確にします。

同じくHarvard Business School Onlineの記事では、年次報告書は他の財務データとは異なり、マーケティング資料としての側面を持ち、編集的要素やストーリーテリングが含まれると説明されています。

つまり、年次報告書は単に情報を提示するためのものではありません。財務実績、戦略、そして事業全体を通じた一貫したストーリーを伝える役割を担います。しかし、明確な目的がなければ、主旨は本来伝えるべき方向性を示さない情報の中に埋もれてしまいます。

レポートの各セクションごとに目的を明確にすることで、意図のない説明によって日本語原稿が冗長になることを防ぐことができます。

例えば、大幅な減益が発生した場合、財務レビューではその主な要因の説明に焦点を当てる一方で、CEOメッセージや各事業セグメントの説明では、今後どのように収益を回復・拡大していくかを示すことが考えられます。

このように、あらかじめ意図を定義しておくことで、レポート全体を通じてストーリーの明確さと一貫性を維持することができます。

3. 成果(Outcome)

読み手に対して、読後に何を考え、何を理解し、どのような行動を取ってほしいのかを明確にします。

年次報告書を通じて、投資家に自社の成長ドライバーをどのように理解してほしいのか。アナリストにより高い確度で将来の業績をモデル化してもらいたいのか。それとも、自社の戦略や実行力に対する信頼の醸成を目的としているのか。

各セクションが、この成果に向かって読み手を導く構成になっているかを確認することが重要です。見出しやタイトル、用語の選択に至るまで、レポート全体で一貫した方向性を持たせる必要があります。

その実現には、明確なテーマ設定が有効です。強いテーマがストーリーを支え、読み手に伝えるべき要点の理解を促す理由については、当社ブログ(テーマに関する記事)をご参照ください。

まとめ

ドラフト作成前に、「読み手」「目的」「成果」を明確に定義することが重要です。このプロセスは、日本語原稿と最終的な英訳の双方の質を高めます。投資家向けコミュニケーションの質は、言語力だけでなく、意図の明確さに大きく依存します。

事前にメッセージの構造を整理することで、投資家が迅速に理解し、信頼しやすいレポートを作成することが可能となります。

海外IRで読み手に伝わる英文コミュニケーションとは

(English blog: Writing For a Global Audience | One World Link)

英語で決算資料や開示資料、その他の投資家向けコミュニケーション資料を作成する際、グローバルな読者を意識したことはあるでしょうか。異なる国や文化的背景を持つステークホルダーが、その内容や論理展開を明確に理解できるかを意識したことはあるでしょうか。

皆さまの読者には、英語力、文化的背景、コミュニケーションスタイルが異なる人々が含まれている可能性があります。グローバルな読者を意識した書き方を理解することで、投資家向けコミュニケーションを、より明確で分かりやすく、市場を越えて伝わりやすいものにすることができます。

企業がグローバルな読者とより効果的にコミュニケーションを取るための考え方の一つが、Plain Englishです。

今回のブログでは、Plain Englishという考え方について、より詳しくご紹介します。また、このライティング手法がもともとどのような背景から生まれたのかを解説するとともに、実際のリライト例を通じて、表現を少し工夫するだけでも、グローバルな読者にとってより分かりやすいコミュニケーションにつながることをご紹介します。

Plain Englishの考え方

One World Linkでは、翻訳においてPlain Englishを重視しており、海外投資家やステークホルダーに向けた情報発信でも、同じ考え方を取り入れることを推奨しています。では、Plain Englishとはどのような考え方なのでしょうか。

以前、効果的なIRコミュニケーションが競争優位性につながる理由についてご紹介したブログでは、Plain Englishについて、「明確さ」と「分かりやすさ」を重視したライティング手法として簡単にご紹介しました。この考え方は、もともと政府文書や法律文書を一般の人々にとって理解しやすくするために生まれたものです。

この考え方は、グローバルな読者に向けて情報を発信する際に特に重要になります。読者によって英語力、文化的背景、コミュニケーションスタイルは大きく異なるため、「明確さ」と「分かりやすさ」は、効果的なグローバルコミュニケーションにおいて重要な要素となります。

また、Plain Englishの考え方には、以前のBusiness Englishに関するブログでご紹介した内容と重なる部分も多くあります。

  • 短く直接的な文章を書く
  • シンプルな表現を使い、イディオムやスラングを避ける
  • 正しい文法や句読点を意識する
  • メッセージを明確に伝える
  • 適切な語彙を使う
  • 業界特有の表現や社内用語の使い方に注意する

以下では、これらのBusiness Englishライティングのポイントをもとに、Plain Englishを意識したリライト例をご紹介します。少し表現を工夫するだけでも、企業コミュニケーションは、グローバルな読者にとってより分かりやすく、伝わりやすいものになります。

短く、直接的な文章で書く

日本語の文は、複数の節や背景説明を含むことが多く、そのまま直訳すると長く読みにくい英文になりがちです。

例
English: In order to further strengthen our management foundation and realize sustainable growth over the medium to long term, we will continue to implement initiatives aimed at improving operational efficiency throughout the Group.

Rewrite: We will continue to improve operational efficiency across the Group to strengthen our management foundation and support medium- to long-term growth.

Why rewrite?
・「In order to」や「further」は語数を増やすだけで、意味の追加にはつながらない
・元の文は、主旨に至るまでに長い前置きと複数の説明が重なっている
・「implement initiatives aimed at improving」は表現が弱く、「improve」とすることでより直接的かつ簡潔になる

シンプルな表現を使い、イディオムやスラングを避ける

イディオムは文化的な背景知識に依存するため、英語を第二言語とする読み手にはすぐに意味が伝わらない場合があります。

例
English: Our new strategy is a game-changer for the company.

Rewrite: Our new strategy will completely transform our [XYZ].

Why rewrite?
・「game changer」はイディオムであり、一部の海外投資家には理解されにくい可能性がある
・同じインパクトを維持しつつ、よりシンプルな表現にすることで、すべての読み手にとって理解しやすくなる

文法と句読点を正しく使う

基本的な点ですが、日本語の構造に合わせて英語のルールを崩すのではなく、文法と句読点の正確さを優先する必要があります。

例えば、英語における引用符の使用は限定的であり、日本語の「」をそのまま置き換えるものではありません。

例
English: The company implements initiatives under the concept of “value creation.”

Rewrite: The company implements initiatives focused on value creation.

Why rewrite?
英語では、引用符は直接引用、タイトル、特殊な用語、皮肉表現などに限定して使用します。単語やフレーズを強調する目的で引用符を使うことはありません。

明確さを確保する

特に日本語の文章では、主語の省略や受動的な表現が多く見られます。これらは日本語の読み手には問題がない場合もありますが、英語では可読性や明確さを損なう要因となります。

例
English: The results of deliberations are reported to the Executive Committee and incorporated into the company strategy.

Rewrite: The Board of Directors reports deliberation results to the Executive Committee, which translates results into the company strategy.

Why rewrite?
元の文は受動態を使用しており、誰が何を行っているのかが不明確です。ガバナンスに関する報告では、明確さが極めて重要です。主語を明示し、文をシンプルに保つことで、内容を正確に伝えることができます。

強い語彙を使う

日本語の文章は、動詞と名詞を組み合わせた表現に依存する傾向がありますが、AIや機械翻訳ではこれが英語において間接的で冗長な表現として訳されることが多くあります。

特に多く見られるのが「する」動詞の表現で、英語では conduct、implement、develop などの弱い動詞として表現されがちです。例えば、「conduct a share repurchase」や「implement a merger」といった表現は、多くの場合「repurchase shares」や「merge」とする方が、より簡潔で自然です。

もう一つの代表的なパターンが名詞化表現です。名詞化とは、動詞を名詞として表現することを指しますが、これにより文章が長くなり、分かりにくくなる傾向があります。例えば、「contribute to the enhancement of corporate value」は「(help) enhance corporate value」に、「conduct an evaluation of risks」は「evaluate risks」とすることで、より明確で簡潔な表現になります。

また、realize、promote、strengthenといった動詞の直訳も、英語の一般的な用法とは異なり、曖昧または不自然に響く場合があります。

Plain Englishの考え方では、単一で強い動詞を用いることで、文章を明確かつ簡潔に保つことが重視されます。

例
English: The company will contribute to the realization of a sustainable society.

Rewrite: The company will help build a sustainable society.

Why rewrite?
・「contribute to」は動作が不明確な弱い動詞である
・「realization of」には複数の問題がある
 - 名詞化表現であり、可能な限り避けるべき
 - この文脈では語の選択として不自然である

OWLでは、副詞や弱い動詞の代わりに、より強い動詞を使うことも推奨しています。日本語のビジネス文書では副詞が多用されますが、これらは削除し、より強い動詞に置き換えることが可能です。

例
English: We will further strengthen efforts to expand overseas operations.

Rewrite: We will strengthen efforts to expand overseas operations.

Why rewrite?
expand、strengthen、improve、increase、enhance、developといった動詞には、すでに進展や変化のニュアンスが含まれています。「further」を加えても意味の重複となる場合が多く、情報としての価値はほとんどありません。

まとめ

海外IRでは、「英語で開示すること」だけではなく、「世界の読み手に伝わること」が重要です。
シンプルで分かりやすい英語は、企業価値を正しく届けるための大きな武器になります。

One World Linkでは、海外投資家やグローバルステークホルダーに伝わる英文開示・IRコミュニケーションをサポートしています。
世界に向けて、自社のストーリーをより効果的に発信したい方は、ぜひご相談ください。

ビジネス英語とは何か

(English blog: What Makes Business English “Business”? | One World Link)

これまでの業務の中で、「ビジネス英語」という言葉を何度も耳にしてきたのではないでしょうか。金融機関や官公庁、多国籍企業など、さまざまなフォーマルな職場環境でビジネス英語は用いられています。

メール、提案書、報告書、プレゼンテーション、会議資料なども、ビジネス英語と聞いて思い浮かべる代表的な例です。では、何がビジネス英語を「ビジネス英語」たらしめているのでしょうか。

本記事では、主要な機関がどのようにビジネス英語を定義しているのかを確認し、一般的な英語との違いとなる特徴、さらにそれらが実務でどのように使われているのかを整理します。そのうえで、自社のステークホルダーとコミュニケーションを取る際に、なぜ相手を意識することが重要なのかを考えていきます。

定義

グローバルな求人プラットフォームであるIndeedは、キャリア開発に関する記事の中で、ビジネス英語を「スラングやイディオムを使わず、文法的な誤りもなく、より明確で直接的な表現を重視する文章の一種」と定義しています。(Indeed Career Guide)

同記事ではさらに、ビジネス英語には語彙、文法、文構造においてより高い基準が求められる点にも触れています。「明確さと一貫性はビジネス英語の重要な要素であり、そのため、適切な語彙の使用やよく構成された文章が重視される」と説明されています。(Indeed Career Guide)

教科書や学術資料、各種英語教育コンテンツを提供する多国籍教育企業であるPearsonも、ビジネス英語を同様の観点から捉えています。

「ビジネスライティングとは、プロフェッショナルな文脈において、明確かつ目的意識をもって言語を用いる文章を指す。メール、報告書、提案書、プレゼンテーションなど、さまざまな文書が含まれ、顧客、同僚、ステークホルダーとの効果的なコミュニケーションを目的とする」

(A guide to mastering business English writing)

これらの定義に共通して見られる要素は、明確さ、正確さ、構造、そして目的意識です。

ビジネス英語の基本要素

これらの定義を踏まえると、ビジネス英語は主に以下の要素で成り立っています。

  • 明確さ(Clarity)
  • 正確さ(Correctness)
  • 直接的な表現(Direct language)
  • 一貫性(Consistency)

では、これらの要素を意識しながら、どのように英語でコミュニケーションを取ればよいのでしょうか。

Indeedの記事では、ビジネス英語を書く際に意識したい実践的なポイントとして、以下を挙げています。

  • 短く、直接的な文章を書く
  • シンプルな表現を使い、イディオムやスラングを避ける
  • 文法や句読点の正確さを重視する
  • メッセージを明確に伝える
  • 適切で力強い語彙を使う

一方、日本企業の文章は、背景説明や文脈の共有、丁寧な説明を重視し、結論を後に示すコミュニケーションスタイルに基づいているケースが少なくありません。

このようなアプローチは、ビジネス英語のライティング手法とは対照的になる場合があります。そのため、日本語の内容を英訳する際には、翻訳者が十分に配慮しながら英語として自然で伝わりやすい形に調整する必要があります。

ビジネス英語の考え方がどのように実務で使われているのか、具体例を見ていきます。以下は、一般的な決算資料からの一例です。

Ex. 1
Original:
Company Name Co., Ltd. (Securities code: 0000; the “Company”) hereby announces that XXX Co., Ltd. has resolved, at its meeting of the Board of Directors held on MM DD, YYYY, to acquire the shares of the Company through tender offer as described in the attachment.

こちらは、株式公開買付けに関する開示において、JPXのテンプレートをもとに英訳された例です。

ご覧のとおり、情報が一文に詰め込まれており、読みにくい構造になっています。

文の構造を整理し、語句を少し調整することで、より明確で読みやすい文章にすることができます。

Rewrite:
Company Name Co., Ltd. (Securities code: 0000; the “Company”) announced that the XXX Co., Ltd. Board of Directors approved a resolution to acquire shares of the Company via tender offer, as described in the attached materials. The meeting in question was held on MM DD, YYYY.

もう一つの例を見ていきます。

Ex. 2
Original:
Although the electronic component business saw lower average selling prices resulting from inventory adjustments by customers in the previous fiscal year, demand grew for high value-added power management ICs for semiconductor applications, mainly in Europe, and operating efficiency improved due to cost reduction efforts, resulting in higher sales.

こちらは、One World Linkで日常的に見られる、日本語から英語への直訳に近い構造の例です。文全体の結論である「売上が増加した」というポイントが、長い説明の後ろに埋もれている点に注目してください。

このような構成は日本語では一般的ですが、英語では冗長な文章となり、結果を伝える意図が不明確になります。

では、この情報をどのようにすればより分かりやすく伝えられるでしょうか。OWLのライターであれば、次のように書き換えます。

Revised:
Sales increased in the electronic component business. despite lower average selling prices in the previous fiscal year due to customer inventory adjustments. This result reflects strong demand for high-value-added power management ICs for semiconductors in Europe and stronger operating efficiency driven by cost reductions.

まず、結果を文の冒頭に置きます。

その上で、「なぜそうなったのか」「どのようにそうなったのか」を整理して補足します。元の文では、プラス要因とマイナス要因が一文に詰め込まれていましたが、修正後は情報を分けて、より直接的に伝えています。

また、「resulting from inventory adjustments by customers」は「due to customer inventory adjustments」に、「cost reduction efforts」は「cost reductions」に置き換えています。複雑な表現を、より簡潔で力のある語に変えることで、可読性が向上します。

Ex. 1およびEx. 2では長い文を扱いましたが、短い文であっても同様に改善は重要です。

次の例では、短い文の明確さをどのように高めるかを確認します。

Ex. 3
Original:
We are working to contribute to the promotion of sustainability through our business activities.

Revised:
We support sustainability through our business activities.

このような表現は、日本語から英語への翻訳で非常によく見られます。「working to contribute to」や「the promotion of」は、「貢献」「推進」といった日本語表現をそのまま反映したものです。

文法上は正しくても、構造が複雑で冗長になりやすく、読み手にとって分かりにくい文章になります。ビジネス英語では、明確で直接的な構造と強い動詞が好まれます。「We support」とすることで、同じ内容をより簡潔かつ自然に伝えることができます。

動詞の形にも注目が必要です。直訳では「〜しています」に引きずられ、-ing形が使われることが多くあります。一方で、英語のビジネス文書では、現在形の方が簡潔で明確な表現となります。

Ex. 4
Original:
Our Group is promoting initiatives such as reducing environmental impact and contributing to local communities in order to realize a sustainable society.

Revised:
The Group supports a sustainable society by reducing environmental impact and contributing to local communities.

こちらは、日本語をAIで翻訳した際によく見られる例です。修正では、動詞を現在形に変更し、主旨を文の前半に配置しています。また、直訳的な不自然さも修正しています。

主なポイントは以下のとおりです。

  1. “Our Group”
    “Our Group”は不自然です。Groupは固有名詞の代替として使う場合のみ大文字にします。この文では一般名詞のため小文字が適切です。「当社グループ」は英語開示では「The Group」と表現します。
  2. “is promoting initiatives”
    “promoting”は「推進」の直訳ですが、英語のビジネス文書ではこの用法は一般的ではありません。意味に応じて、pursue、implement、carry outなどの動詞を使う方が自然です。
  3. “in order to”
    「in order to」は直訳で多用されますが、多くの場合「to」で十分に意味が伝わります。簡潔な表現の方が可読性が高くなります。

Ex. 5
Original:
Net sales increased significantly by 28.5% year on year as a result of the expansion of sales in overseas markets and the strengthening of product competitiveness.

Revised:
Net sales rose 28.5% year on year, driven by higher overseas sales and stronger product competitiveness.

こちらは、四半期決算でよく見られる表現です。

Ex. 3と同様、元の文は短いものの、それだけで明確とは限りません。語彙をより簡潔で力のあるものに置き換える余地があります。

日本語の文章は、動詞と名詞を組み合わせた表現に依存する傾向があり、AIや機械翻訳ではこれが英語において間接的で動詞に頼った冗長な表現として訳されることが多くあります。日本語から英語への翻訳でよく見られるのが、「〜の実施」「〜の強化」「〜の推進」といった表現です。これらは、AIや機械翻訳では「the implementation of」「the strengthening of」「the advancement of」といった名詞化表現として訳される傾向があります。

これらの名詞化表現は文章を重くし、可読性を下げます。「the expansion of sales in overseas markets」を「higher overseas sales」に置き換えることで、より簡潔で直接的な表現になります。

金融分野におけるビジネス英語

ビジネス英語はさまざまな業界で用いられますが、読み手に応じて書き方を調整することが重要です。

特に、投資家向け広報(IR)におけるコミュニケーションは、一般的な企業文書とは性質が異なります。主な読み手は金融市場で活動する関係者であり、機関投資家、アナリスト、海外株主などが限られた時間の中で開示資料を確認します。これらの読み手は、1日のうちに複数の企業、業界、法域を横断して比較を行うことも少なくありません。感情に訴える表現ではなく、明確で正確な業績情報、論理的な説明、一貫した用語の使用が求められます。

多くの米国企業は、開示文書の明確性を高めるため、「Plain English」を用いて財務情報を開示しています。その際、米国証券取引委員会(SEC)が公表した『Plain English Handbook 2011』を参照しています。SECは、投資家が重要な情報を不必要な複雑さなしに理解できるよう、短い文章、能動態、具体的な表現、論理的な構成の使用を推奨しています。

継続的な実践が上達につながる

ビジネス英語のライティングは、習得に時間と継続的な練習を要する重要なスキルです。

具体例の確認、文構造の分析、弱い動詞や名詞化表現の特定に取り組むことで、着実にスキルを高めることができます。その際、常に次の問いを意識することが重要です。想定する読み手に対して、結果を明確に伝えられているか。

さらなる実践として、One World LinkのFacebookやLinkedInもご活用ください。企業広報や財務コミュニケーションに携わる方々に向けて、ビジネス英語ライティングのポイントや具体例、短いクイズなどを定期的に発信しています。

AIおよび機械翻訳を使用する際の留意点

AI翻訳システムは、大量の対訳データを学習しているため、日本語の原文構造をそのまま反映する傾向があります。その結果、英語として自然な構造に再構成されるのではなく、日本語の書き方を引きずった英文になりがちです。長い文はそのまま長く、結論より前に背景説明が置かれ、主旨が文末に配置されるといった特徴が見られます。

日本語の報告書をAIで英訳する場合、生成された英文が自然な英語のライティングに沿っているかを必ず確認する必要があります。本記事で取り上げた手法を活用し、文を短くする、要点を前に出す、説明を簡潔にするなどの調整を行うことで、海外の読み手にも理解しやすい文章にすることが重要です。

効果的なIRが企業価値の差を生む理由

(English blog: How Effective IR Can Be a Competitive Advantage | One World Link)

前回のブログでは、Palantir Technologiesの会長であるピーター・ティール氏の動画が再び注目を集めたことを取り上げました。同氏は、AIの普及が数学系の分野と文章系の分野に与える影響の違いについて言及しています。

また、Wall Street Journalの記事をもとに、企業が「ストーリーテリング」を通じた情報発信を重視する傾向が高まっている点についても紹介しました。

本記事では、この議論をさらに一歩進め、投資家向け広報における効果的なストーリーテリングが、なぜ競争優位性につながるのかを考えていきます。

IRにおいてストーリーが重要な理由

投資家は、数値だけで企業を評価しているわけではありません。

財務指標は重要な判断材料ですが、その数値の背景にある戦略を理解することも同様に重要です。

調査によれば、投資家向け広報におけるコミュニケーションの質や頻度の向上は、企業価値、流動性、機関投資家保有比率の改善につながることが示されています。(*IDEAS / RePEc journal article)

言い換えると、優れたストーリーは市場における企業の評価に影響を与える可能性があります。

このストーリーは一般に「エクイティストーリー」と呼ばれ、以下の要素を結び付ける役割を果たします。

・事業戦略
・競争ポジション
・成長機会
・資本配分の方針
・長期的な価値創造

ここで、Corbin Advisorsによるレポート『Maximizing Valuation Through Strategic Investor Communication』を見てみます。Corbin Advisorsは、投資家向け広報およびコミュニケーション分野における戦略アドバイザリーを提供し、上場企業の持続的な株主価値の構築を支援する米国企業です。本レポートでは、現代の資本市場において効果的なコミュニケーションの重要性が高まっている点が示されています。

投資コミュニティへの24,000件以上のインタビューに基づく同社の調査によれば、企業価値の約40%は投資家向け広報およびコミュニケーションによって、プラスにもマイナスにも影響を受ける可能性があるとされています。また、強い実行力と優れたコミュニケーションを両立していると認識されている企業は、株価上昇率において同業他社を大きく上回る傾向があることも示されています。(Corbin Advisors PDF)

Corbin Advisors, Maximizing Valuation Through Strategic Investor Communication, 2025

多くの企業を同時にフォローし、膨大な情報に直面している投資家にとって、明確で説得力のある投資ストーリーは、関心を引き付け、長期的な信頼を構築するうえで重要な役割を果たします。詳細については、ぜひ本レポートをご参照ください。

企業コミュニケーションにおけるAI活用の拡大

近年、多くの企業がコスト削減や業務効率化を目的に、AIの活用を進めています。投資家向け広報の分野では、人員の削減や、従来は外部の翻訳会社やコミュニケーション専門家に委託していた業務を、AIツールや生成系翻訳によって内製化する動きとして現れています。

一方で、企業文書においてAIツールや生成系翻訳に依存することは、反復的で二次的なアウトプットにより、自社独自のストーリーや表現を失うリスクを伴います。

一見すると、AIの活用や人員削減は効率的に見えます。AIツールは、日本語の原文から英語の文章を迅速に生成でき、情報の要約やドラフト翻訳も短時間で行うことが可能です。しかし、AIへの依存度が高まるほど、企業固有の表現やストーリーが徐々に失われていく可能性があります。

多くの企業が同様のツールやプロンプトを使用すると、アウトプットは画一的になりやすくなります。その結果、企業のメッセージは次第に均質化し、汎用的で競合他社との差別化が難しいものになっていきます。

日本語から英語への翻訳の難しさ

日本語と英語は、翻訳において大きく異なる言語です。文構造、語彙の選択、ビジネス文書のトーンに至るまで、明確で効果的なコミュニケーションを実現するには、単なる直訳以上の対応が求められます。

日本語のビジネス文書は、長い文、間接的な構造、主語の省略に依存する傾向があります。一方で、英語の投資家向けコミュニケーションでは、結果を先に示す構成、明確な主語、能動態が一般的です。

大規模言語モデルを用いた翻訳では、日本語の文構造をそのまま反映した英文が生成されることが多くあります。文法的には正しくても、直訳に近い英文となりやすい点に注意が必要です。

このような英文は、海外投資家にとって読みにくく、理解しづらい場合があります。日本語の構造に過度に依存すると、メッセージが伝わりにくくなり、コミュニケーションの効果が低下する可能性があります。

さらに、サステナビリティやESG開示においては、近年さまざまなフレームワークやガイドラインが普及しています。ISSB、GRI、TCFDなどの基準では、類似した情報を類似した用語で開示することが求められる傾向があります。その結果、英訳後のサステナビリティ関連の記述が、各社でほぼ同じ表現になるケースも見られます。

これらのガイドラインに従うことは不可欠です。しかし、どのように伝えるかについては、各社に裁量があります。

簡潔で明確な文章は、より少ない語数で同じ情報を伝えながら、自社の戦略や強みを際立たせることができます。同じ開示内容であっても、より分かりやすく効果的に伝えることで、グローバル投資家に対する差別化につながります。

コミュニケーションによる差別化

現代の投資家は膨大な情報に直面しており、機関投資家の多くは同時に数十社をフォローしています。

このような環境では、明確かつ一貫性のあるコミュニケーションを行う企業ほど、投資家の中で際立ちやすくなります。

質の高い投資家向けコミュニケーションは、企業にとって以下の点で有効です。

・投資家との信頼関係の構築
・複雑な戦略の明確な説明
・競合他社との差別化
・長期投資家の獲得

そのため、ストーリーテリングに注力する企業は、汎用的なコミュニケーションに依存する企業に比べて優位性を確保しやすくなります。

Plain Englishの活用

IRコミュニケーションを改善するための実務的な方法の一つが、Plain Englishの活用です。

プレインイングリッシュは、明確さと分かりやすさを重視した考え方であり、グローバルな読者に向けて情報を発信する企業に適したライティング手法です。このライティング手法は、もともと政府文書や法律文書を一般の人々にとって理解しやすくするために生まれました。One World Linkでは、企業が同じ考え方を取り入れることで、海外投資家やステークホルダーに対して、より明確かつ効果的に情報を伝えられるようになると考えています。

Plain Englishについては、こちらの過去ブログもあわせてご覧ください。今後のブログでは、Plain Englishの考え方や実務での活用方法について、さらに詳しく解説していきます。

まとめ

近年、多くの企業が翻訳にAIや生成系ツールを活用するようになっています。しかし、効果的なIRは単にスピードや量の問題ではありません。メッセージの質と、自社ならではのストーリーをいかに差別化するかが重要です。

質の高いコミュニケーションとプロフェッショナルなライティングに取り組む企業は、投資家の理解を深め、信頼関係を構築し、グローバルな資本市場において差別化を図ることができます。

AIでは伝わらない。いま企業に求められる「ストーリーテリング力」とは

(English blog: The Rise of Storytelling in the Era of AI | One World Link)

近年、欧米企業のインベスターデーや決算説明会において、「storytelling」や「storyteller」といった言葉の使用が明確に増加しています。企業の求人情報にも同様の変化が見られ、AIの活用が進む中でも、ストーリーテリングを重要なスキルとして求める職種が増えています。つまり企業は、単なる情報開示ではなく、「どう伝えるか」を重視し始めているといえるでしょう。

Palantir Technologiesの会長であるピーター・ティール氏による過去のAIに関する発言が、ここ数カ月で再び注目を集めています。

AIは、言語分野よりも数学分野に大きな影響を与える可能性がある(*1)

実際に、AIは高度な数学問題を解くレベルに近づいています。
一方で、企業コミュニケーションの領域では、むしろ逆の動きが起きています。

  • AI活用は進む
  • しかし「人が伝える価値」への需要は増加

このギャップこそが、「ストーリーテリング需要」の背景です。

米国では、銀行をはじめとする金融機関においてAIが大きな関心事となっており、AIの活用を理由とした人員削減や、その可能性に関する発表が相次いでいます(*2)。さらに、Scientific Americanの記事(*3)によれば、あるAIモデルが非公式の2025年国際数学オリンピックのテストにおいて、6問中5問を解いたと報告されています。

では、「言語系の人材」はどうでしょうか。また、IR担当者として、自身をそのような立場にあると捉えることはあるでしょうか。AIの進展は、企業コミュニケーションやライティングに関わる職種にどのような影響を与えているのでしょうか。

2025年12月、Wall Street Journalは米国企業におけるストーリーテリングの重要性に関する記事を掲載しました。同記事では、GoogleやMicrosoftなど、多くの企業が「ストーリーテラー」を求めている点が紹介されています(*4)。

記事の中では、次のように述べられています。

「マーケティング企業やテクノロジー企業は、これまでも他分野の誇張的な表現を取り入れ、企業内の職種をより魅力的に見せてきた。テクノロジー・グル、開発者ニンジャ、SEOロックスター、さらにはデジタル・プロフェットといった呼称の流行はすでに過去のものとなっているが、給与制のコミュニケーション担当者を『ストーリーテラー』と呼び、その実践としてのストーリーテリングは、むしろ人気を高めている。」

つまり、従来のライティング業務の価値に疑問が投げかけられる一方で、企業はストーリーテリングに関わる人材の採用を引き続き強化しています。では、ストーリーテリングとは具体的に何を指し、誰がその担い手となるのでしょうか。

ストーリーテリングとは、情報を単に個別の事実として提示するのではなく、アイデア同士をつなぎ、明確で引き込まれるような一貫した物語として伝えることを指します。ストーリーテラーとは、その物語を設計し伝える役割を担う人材であり、何を強調するか、どのように情報を構成するか、どのように読み手にとって分かりやすく魅力的に伝えるかを判断します。

企業の文脈では、ステークホルダーが企業の戦略、業績、今後の方向性を一つの一貫したストーリーとして理解できるように情報を構成することが、ストーリーテリングに該当します。

このようなコミュニケーションを、「編集」や「広報」といった従来の用語ではなく、「ストーリーテリング」と表現する動きが近年増加しています。

実際、Wall Street Journalによると、LinkedIn上の求人において「storyteller」や「storytelling」といった語を含む掲載数は、過去1年間(2024年11月27日〜2025年11月26日)で倍増しました。記事掲載時点では、マーケティング関連の求人が約50,000件、メディアおよびコミュニケーション関連が約20,000件に達しています。

同記事では、この変化の背景についても示唆されています。情報の受け取り方の変化が一因と考えられます。読者は従来の新聞から離れ、企業はソーシャルメディアなど自社のチャネルを通じて直接情報発信を行うようになっています。

こうした変化は、読み手と企業の双方におけるコミュニケーションのあり方に影響を与え、ひいては企業がこれらの役割をどのように定義し、人材を採用するかにも影響を及ぼしていると考えられます。

金融データおよび分析サービスを提供するFactSetも、インベスターデーや決算説明会において、「storyteller」や「storytelling」といった言葉の使用頻度が増加していると報告しています。また、CEOや企業の間では、「editorial」や「press relations strategy」といった従来の用語から、「storytelling」や「content strategy」といった表現へとシフトが見られます(*4)。

FinTech企業であるChime社の最高コーポレートアフェアーズ責任者であるJennifer Kuperman氏は、次のように述べています。「“editorial”という言葉は、企業の情報発信を“記事を書くこと”といった限定的な活動として捉えがちです。しかし実際には、企業のメッセージは記事だけで伝えるものではありません。ストーリーは、ソーシャルメディア、ポッドキャスト、経営陣の発信、イベント、メディア対応など、さまざまな手段を通じて伝えることができます。」(*4)。

これらの動向を総合すると、企業はコミュニケーションを、ステークホルダーの理解を形成する手段として捉える傾向を強めているといえます。投資家向け広報や企業コミュニケーションに携わる担当者にとって、このストーリーテリングへのシフトは、英語開示の書き方や情報の提示方法に対する期待水準の高まりを意味します。

まとめ

AIは急速に進化していますが、その一方で、AIへの依存が高まることによる不信感やリスクも指摘されています。企業は、より人間らしく信頼性の高いコミュニケーションを通じてターゲットとする読み手にアプローチしようとする傾向を強めており、その結果、ストーリーテリングを重視する役割への需要が高まっています。

ピーター・ティール氏が示唆したように、AIは高度な数学的課題の解決に近づいているかもしれません。しかし、ライティングにおいては、依然として人の役割が不可欠です。

この変化により、英語でどのように自社のストーリーを伝えるかの重要性は一層高まっています。IR開示文書は正確な情報を提示するだけでなく、主要なメッセージを明確で一貫したストーリーとして構成する必要があります。これは原文と英訳文の双方において求められます。

One World Linkでは、お客様のストーリーを世界に向けて伝えることを重視しています。
日本語から英語への翻訳を通じて、明確で自然、かつ投資家に適したストーリーとして伝わるように、「人」と「AI」の両軸で、企業の英語開示を支援しています。

ご不明点がありましたら、お気軽にお問い合わせください。英語での情報発信が自社のストーリーを的確に支えるものとなるよう、サポートいたします。

出典

1. YouTube video
Mercatus Center. (2024, April 17). Peter Thiel on political theology | Conversations with Tyler [Video]. YouTube.
https://www.youtube.com/watch?v=vfbndRTlsg4


2. Yahoo Finance article
Ma, J. (2026, March 8). Peter Thiel warned AI is coming for math people before word people. Banks have already said smaller headcounts are possible. Yahoo Finance.
https://finance.yahoo.com/news/peter-thiel-warned-ai-coming-180944036.html


3. Scientific American article
Reihl, E. (2025, August 7). AI took on the Math Olympiad, but mathematicians are not impressed. Scientific American.
https://www.scientificamerican.com/article/mathematicians-question-ai-performance-at-international-math-olympiad/


4. Wall Street Journal article
Deighton, K. (2025, December 12). Companies are desperately seeking storytellers. The Wall Street Journal.
https://www.wsj.com/articles/companies-are-desperately-seeking-storytellers-7b79f54e

日本語レポートの英語表記、本当に正しいですか?

(English blog: Are You Using Incorrect English in Japanese Design? | One World Link)

日本語の報告書デザインの中で英語を使用していますか。

ブランディングやグローバル対応、または開示資料全体での一貫性を目的として英語を取り入れるケースが増えています。しかし、最終的なレイアウトを確定する前に、必ずネイティブの英語話者による確認を行うことが重要です。

この確認がないままデザインを進めてしまうと、レイアウトに組み込まれた英語表記に問題が潜んでいることが多く、翻訳段階になって初めて課題が表面化することがあります。その時点でデザインを修正しようとすると、大幅な変更が必要になる場合があり、日本語版と英語版のどちらにも影響が及ぶ可能性があります。

課題が発生するポイントはさまざまで、カタカナ英語、短い英語ラベル、英語ベースの見出し、タグライン、その他のコピー表現など、多岐にわたります。以下では、IR・ESG関連の日本語報告書で特によく見られる代表的な例をいくつか紹介します。

カタカナ英語

日本語の報告書で使用される英語表現の多くは、カタカナ語や日本語の文脈では自然に機能する略語が元になっています。しかし、これらの表現は英語として見ると明確さを欠くことがあり、誤解を生む場合もあります。よく見られる例として、次のようなものがあります。

  • テーマ

Theme と訳されることが多い言葉ですが、文脈によっては適切ではありません。topics、discussion points、focus areas など、内容に合わせた訳語を検討する必要があります。

  • インプット・アウトプット(または類似の見出し)

Input や Output が適切な場面もありますが、文脈によっては複数形が求められます。日本語のカタカナ語はそもそも単複の概念を持たないため、そのまま訳すと意図が伝わりにくくなる可能性があります。場面に応じて、singular と plural のどちらが必要なのか判断しながら翻訳することが重要です。

  • トップメッセージ

日本語レポートで頻繁に見かける見出しですが、Top Message は米国のコーポレートコミュニケーションでは一般的ではありません。Message From the CEO や CEO Message など、より自然な選択肢があります。

これらの訳語は必ずしも誤訳というわけではありませんが、英語として見ると幼稚、直訳的、あるいは「日本語の構造をそのまま英語に置き換えた表現」に見えることがあります。さらに、こうした英語が背景デザインやグラフィックの中に組み込まれている場合、翻訳段階で問題が見つかっても簡単に修正できません。

デザイン段階の早いタイミングで、ネイティブの英語話者や信頼できる翻訳会社に確認することが非常に重要です。

タイポグラフィ

日本語レポートの中で英語を使用する際は、タイポグラフィにも注意が必要です。日本語用に最適化されたフォントは、英語の文字間隔(kerning)や文字の形状に必ずしも対応していません。英語に適したフォントを選ぶことで、英語表記が日本語版・英語版のどちらでも整った印象になり、文字間隔の不自然さやレイアウト上の不一致を防ぐことができます。

下の例では、同じフレーズを4種類のフォントで表示しています。右側には Georgia と Arial(英語向けフォント)、左側には 游ゴシック と メイリオ(日本語向けフォント)を使用しています。

日本語向けフォントでは、文字一つひとつの間隔がわずかに広くなっていることが分かります。この文字間隔が kerning(カーニング) です。英語では、この間隔が引き締まりバランスよく整っているほど、洗練された印象になります。

また、日本語フォントは漢字や仮名の縦方向の特徴に対応するため、英語フォントよりも広めの leading(行間) が設定されています。そのため、日本語フォントで英語の段落を組むと、行間が広くなりすぎて間延びしたレイアウトになってしまうことがあります。

英語向けフォントについて詳しく知りたい方は、こちらのブログをご覧ください。
日本語向けフォントについては、こちらをご参照ください。

まとめ

日本語の報告書の中で英語を使用することは、グローバルな印象を高めるうえで効果的です。ただし、その英語が正確で自然であり、タイポグラフィの観点からも適切に整えられていることが前提となります。直訳的な英語やフォーマットが不適切な英語は、翻訳段階で修正が必要になることが多く、日本語版のレイアウトが英語の仕様を考慮していない場合、対応が難しくなることがあります。

英語を使う前提でレイアウトや構成を検討すると、日本語版・英語版の双方の完成度が高まります。明確で一貫した英語は、投資家の理解を促し、IRコミュニケーションに求められるプロフェッショナリズムを示すことにつながります。

One World Link では、日本語レイアウトに組み込まれた英語のチェックから翻訳前の事前確認まで幅広くサポートしています。ぜひお気軽にご相談ください。

英語をより自然に見せるための簡単な方法の一つ

(English blog: One Easy Way to Make Your English Writing Appear More Natural | One World Link)

日本語のリストや同じ階層に並ぶ項目をそのまま英訳すると、英語で重要な要素である「パラレル構造(parallel structure)」が抜け落ちてしまうことがあります。

パラレル構造とは、リストや同じグループ内の項目を、文法や表現の形式をそろえて示すことを指します。直訳では日本語の構造をそのまま反映してしまいがちですが、英語でパラレル構造が欠けると、読みにくさや違和感につながります。

質の高い英語は、正確さだけでなく構造の分かりやすさにも支えられています。構成が明確で一貫していると、読み手は重要なポイントをスムーズに理解でき、海外の読者にも迷いなく情報が伝わります。

非パラレル構造

OWLでは、日本語の報告書でパラレル構造になっていないリストや語句の並びをよく目にします。動詞、名詞、動名詞(ing形)、その他さまざまな品詞が一つのリストに混在するケースが多く、日本語では文脈から意味を推測できるため問題になりにくい表現です。しかし、英語では同じ読み方ができません。

構造に統一性がないまま提示すると、英語では不均一に見え、読みづらさが生まれます。特に、明確さと一貫性が求められるIR文書においては、読者の理解を妨げ、コミュニケーション上の問題につながる可能性があります。

以下の日本語の例をご覧ください。

このリストをどのように訳しますか。直訳すると、パラレル構造ではない次のような英語になるかもしれません。

項目③をご覧ください。最初の二つの項目とは異なり、environmentally friendly activities には動詞が含まれていません。この動詞の欠落は、英語の読者にとって違和感があり、企業がこれらの活動に対して「どのような行動を取るつもりなのか」が読み取れなくなってしまいます。

環境に配慮した活動に「取り組む」予定なのか。
それとも活動への参加を「増やす」予定なのか。
新たに活動を「開始」するのか。
現在の取り組みを「継続」するのか。

読み手は目的を推測しなければならなくなり、意図が正確に伝わりません。

パラレル構造を整えることで、読み手は内容をスムーズに追うことができ、誤解を防ぎ、重点項目が明確になります。また、文章全体に一貫性と洗練さが生まれ、信頼性の高いコミュニケーションにつながります。

同じ階層に並ぶ項目

同じ階層に並ぶ表現は、必ずしもリストとしてまとめられているとは限りません。
その一例が「マテリアリティ」です。マテリアリティは、サステナビリティレポート、ESG開示、IR資料など、さまざまな報告書で広く用いられる要素となっています。

各マテリアリティをレイアウトする際は、リスト形式でなくても、同じ階層に並ぶ項目は同じ時制・同じ文法構造で統一することが重要です。報告書内の複数のセクションで登場する場合でも、一貫した形式を保つことで読者にとって理解しやすい表現になります。

次のマテリアリティを見てみましょう。

パラレル構造になっているでしょうか。
それとも、動詞、名詞句、動名詞が混在している箇所を確認できますか。
もし混在が見られる場合、どのように修正できるでしょうか。

このマテリアリティの並びがパラレル構造になっていないと感じたのであれば、正解です。

では、どのように修正するのが最も効果的でしょうか。

対応方法として、次の三つが挙げられます。

  1. 動詞や動名詞(“-ing” で終わる形)をすべて名詞句に統一する
  2. 名詞句や動名詞をすべて動詞フレーズに統一する
  3. 名詞句と動詞フレーズをすべて動名詞に統一する

次に、編集後のマテリアリティ内容を見てみましょう。

このグループの各項目はパラレル構造になっているでしょうか。
正解は「はい」です。

今回の修正では、すべての表現を “–ing” で終わる形(動名詞)に統一しました。
ただし、どの形式にそろえるべきかは一概に決まっているわけではありません。plain verb(動詞の原形)、“-ing” verbs(動名詞)、あるいは名詞句のいずれを選ぶかは、文書全体のスタイルや文脈、そして読みやすさとのバランス によって変わります。

まとめ

直訳では、英語で重要となる構造上のサインを見落としてしまうことがあります。英訳時にパラレル構造を意識することで、誤解を防ぎ、日本語の意図をより正確に伝えることができます。

同じ階層に並ぶ表現や複数の要素を示す際にパラレル構造を整えることで、文章に一貫性と洗練された印象が生まれます。明確な構成は海外投資家の理解を助け、信頼性や透明性の向上にもつながります。

英文の一貫性づくりでお困りの場合は、ぜひ One World Link にご相談ください。

なぜ統一したテーマ設定が統合報告書のメッセージ性を高めるのか

(English blog: Why Using a Consistent Theme for Integrated Reports Strengthens Your Global Message | One World Link)

統合報告書やサステナビリティレポートは、企業のストーリーをグローバルな読者に伝える重要な役割を担います。これらの文書は、戦略、目的、進捗を国内外のステークホルダーに示すものであり、各セクションが企業が伝えたい全体像を形作る一部となります。読者がどのようなストーリーを受け取るかを決める鍵となるのが、報告書全体を導く「テーマ(全体メッセージ)」です。

テーマは、表紙に載せるキャッチコピーではありません。企業の価値観やフィロソフィー、そして報告書全体で伝えたいメッセージを支える役割を持つ必要があります。

もしセクションごとにテーマが変わってしまうと、読者は企業が示す方向性を理解しづらくなります。統一したテーマを設定することにより、報告書全体の一貫性が保たれ、読み手は冒頭から最後まで明確なメッセージを追いやすくなります。

統一したテーマは読みやすさを高めるだけでなく、企業の信頼性向上にもつながります。投資家は企業から明確なメッセージを求めており、強いテーマ設定は、組織としての意図や方向性が確立されていることを示すことができます。

セクション全体でテーマを統一する重要性

統合報告書に掲載される見出しを例に見てみましょう。

表紙
Innovation for Growth

CEOメッセージ
Creating Stakeholder Value

ESGセクション
Building a Sustainable Future

これらの見出しを見ると、読者は各セクションがまったく異なる概念を扱っているように感じる可能性があります。いずれも重要なポイントを示していますが、焦点がばらつくことで読者の注意が分散し、報告書全体が断片的に見えてしまいます。

次に、「Innovative Growth(革新的な成長)」という一つのテーマで統一した例を示します。

表紙
Innovation for Growth

CEOメッセージ
Innovative Growth Builds Shareholder Value

ESGセクション
Innovative Growth Leads to a Sustainable Future

このように見出しを修正すると、各メッセージが一つのテーマにつながり、セクション間で一貫性が生まれます。また、企業が革新的な成長に真剣に取り組んでいるという印象を強めることができます。

各セクションが同じ核となる考え方を展開していると、報告書全体に意図性が生まれます。テーマが戦略ストーリーを支え、リーダーシップメッセージ、ESG施策、長期的な価値創造がどのようにつながっているのかが、読者にとってより明確になります。

テーマ設定が統合報告書に不可欠である理由

Storyraise Technology Inc. が運営する Storyraise の記事では、統合報告書にテーマを設定する重要性について、多くの理由が紹介されています。特に、テーマを設定することで得られる主なメリットとして、以下の点が挙げられています。

テーマは…

  • ストーリー性のある報告を可能にする
  • 企業のブランドをより人間的に見せる
  • インパクトのあるメッセージを届けやすくする
  • 書き手と読み手の両方が内容の軸を見失わずに済む
  • ブランドの方向性を再確認する機会を生む
  • 過年度の報告書との差別化につながる

記事の中では、テーマがない場合の問題点についても触れられており、
「テーマがなければ、読者はストーリーを読んでいる感覚を持てません。まるで教科書や退屈な財務報告書を読んでいると感じてしまいます。」
と指摘されています。

まとめ

強いIR・ESGレポートには、明確なテーマ設定が欠かせません。各セクションが一つの考え方に基づいて構成されていると、文章全体のメッセージがより深く読者に伝わり、企業のグローバルメッセージもより一貫したものになります。

One World Link では、テーマ構成の整理、日本語と英語のメッセージの整合性確保、読みやすさの向上など、統合報告書およびESG関連資料の質を高めるお手伝いをしています。
無料の英語翻訳品質診断レポートもご利用いただけます。
https://www.oneworldlink.jp/satei.php