縦組みデザインは英語レポートの読みやすさを損なう理由

(English blog: Why Vertical Japanese Text Design Ruins English Reports | One World Link)

日本語と英語が、まったく異なる言語だということに異論を挟む人はいません。「語順が逆に見える」「読み進める方向が違う」など、両者は正反対と言ってもいいほどです。

英語は、日本語よりも文章量が約2倍になることをご存じでしょうか。グラフのラベル、見出し、デザイン要素など、限られたスペースに英語を押し込むのは至難の業で、翻訳者が工夫を凝らす場面も多くあります。

しかし今回取り上げたいのは、その中でも特に大きな問題を引き起こす「縦組み」の英語表記です。

縦組みは英語読者にとって悪夢

縦組みは日本語のデザインでは日常的に使われますが、英語では全く別の話になります。混乱のもとになり、読者に強いストレスを与えます。理由は次のとおりです。

• 読みの流れを妨げる:
英語の読者は、左から右、上から下へと情報を処理します。縦組みはその流れを強制的に止め、首を傾けたり、読み方を考えたりする必要が出てきます。慣れていない読者は、その箇所を読み飛ばすことさえあります。

• 誤読のリスクが高い:
財務情報、マニュアル、技術文書など、複雑な文書では特に問題になります。英語読者は左から右への流れを前提に情報を解釈するため、縦組みのラベルや配置によって「どのデータを指すのか」「これは見出しなのか、補足情報なのか」がわかりにくくなります。

仮の統合報告書をもとに作成した例をご覧ください。
図1

このように縦組みを多用すると、英語読者はレポートを読むために、ほとんど首をひねらざるを得ません。

(実話ですが、私は以前、縦組みの見出しだらけの80ページの統合報告書を編集したことがあります。80ページすべてがこの形式だったことを想像してみてください。)

Journal of Vision に掲載された研究では、縦組みのテキストを読む速度が横書きと比べて大幅に低下することが示されています。(Journal of Vision)

数カ所の縦組みであれば、読者は多少無理をして読もうとするかもしれません。しかし、80ページ丸ごと縦組みとなると話は別です。読者は「ここまで読みにくい資料なら読む価値はない」と判断する可能性があります。

海外投資家を含む読者は、スムーズに読み進められる資料を求めています。縦組みの英語表記は理解の速度を落とし、資料への信頼感を損ねる要因になります。

縦組みを避けられない場合

もちろん、縦組みを完全に避けられない場面もあります。

多くの場合、英語版の作成段階に入る頃には、デザインがすでに確定しており、大幅なレイアウト変更が難しいケースもあります。

では、どうすればよいのでしょうか。
図2 をご覧ください。

図を見ると、Our Purpose がページの外側を向いています。
英語は上から下へ読むため、「英語の縦組みはこの向きが正しい」と感じる方もいるかもしれません。

しかしご存じのとおり、英語には「例外」がつきものです。

もし Our Purpose に下線を引いた場合、その線は空白部分の方向へ向いてしまい、本来見出しが指し示すべき本文とは逆側に傾きます。これでは、見出しの下に内容が続くようには見えず、読者は関連する文章が存在しないと誤解する可能性があります。

このような場合、見出しが必ず本文側を向くように、テキストを時計回りまたは反時計回りに回転させるのが最適です。すべての見出しが同じ方向を向かなくても構いません。読者が自然に内容へと視線を誘導できることが最も重要です。

では、図1 をもう一度見てみましょう。

図1(修正版)

修正版の見出しは下から上へ読む形式となり、他の見出しとは向きが異なりますが、見出しが正しい情報に向かっているという点が最も重要です。

Adobe InDesign や Microsoft Word などのツールには、縦書きテキストをより適切に配置するための機能があります。レイアウト全体を作り直さなくても、こうした機能を使うことで調整が可能です。

また、場合によってはスペースを少し広げて横書きに変更する方法もありますが、これは使用できるスペースに大きく左右されます。

図2(修正版)

この方法を選ぶ場合は、単語が複数行にまたがらない形で配置できるときに限り検討してください。

図3

まとめ

避けられるデザイン上の問題で読者を失わないようにしましょう。
英語版のレポートは、グローバル投資家にとって御社との最初の接点になることがあります。ラベルや見出しが読みにくい、不要に感じる、または不自然だと、読者は読み続ける意欲を失い、企業理解が進まなくなる可能性があります。

縦組みを避ける、または配置を工夫することは、単なるデザイン判断ではありません。信頼を築くための重要な要素です。
IR担当者にとって、資料が海外読者にとって読みやすい仕様になっているかどうかは欠かせないポイントです。縦組みの英語表記がある場合は、可能な範囲で見直し、適切な調整を行うことが大切です。

レポートを提出する前に、次の点を確認してください。

• 読みの流れを妨げる縦組みがないか
• 縦組みの見出しが適切に配置されているか
• 見出しを本文側に向けるなど、回転して改善できる箇所がないか

また可能であれば、早い段階からデザイン担当者と連携し、日本語と英語の双方に配慮したレイアウトを検討しましょう。早めのすり合わせが、大きな修正や後々の負担を減らします。


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Mia Omatsuzawa 大松澤実絵

Chief Executive Officer (CEO)One World Link Inc.
英語のコミュニケーションにお悩みの方、私にご相談ください。真のコミュニケーションを、心と心のコミュニケーションの実現をご提供いたします。 担当記事:主に英語のコミュニケーション、ライティングについての記事を担当。また、価値あるグローバルな情報をいち早く日本語で皆様にお届けいたします。      mia@oneworldlink.jp  Facebook(Mia Omatsuzawa) 

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