グローバル化が進み、大企業だけではなく、中小企業においても、益々海外との取引が増えていくいま、通訳の需要も増えてきていると思います。
弊社の国際コミュニケーション事業においても、通訳のお問合せやご依頼が非常に増えてきていると実感しております。また、実際に通訳者を使い、助けられたというご経験をお持ちの方、逆にひどい通訳者だった、と残念なご経験をお持ちの方もいるのではないかと思います。
本日のブログでは、通訳を使うことがある、あるいは、今後使うことになりそうな方にぜひ読んでいただきたいと思います。
通訳者の本来の役割
通訳者の仕事は非常に付加価値が高いです。つまり、それなりのコストがかかります。
1日(8時間)の通訳料のレートは、わたしのこれまでの経験上で、60,000円〜150,000円と幅があります。通訳者のグレードや、同時通訳、ウィスパリング、逐次通訳など通訳の種類によっても金額は異なります。
弊社でご提供させていただく通訳者のほとんどは通訳者の中でも最もレベルの高いと言われるレベルAクラスの通訳者となるため、100,000~130,000円が相場となります。決してお安いとはいえない金額をお支払いいただきますので、お客様側の通訳者への期待や要望も高くなるのは当たり前であり、プロとしてお金をいただく以上、期待以上の仕事をしなければならないのも私たちの任務であると思っております。
とはいえ、通訳者はあくまで通訳がメインの業務です。
いくら高い金額がかかっているとはいえ、それは彼らの高い能力に見合った能力給です。同席のご経験のある方はご理解いただけるかと思いますが、通訳者は決して誰でもできる仕事ではありません。
非常に高い技術とスキル、経験、パーソナリティを兼ね備えていなければなりません。
通訳の質は、商談の成功を大きく左右する可能性もありますし、企業イメージのアップダウンにも関わってきます。
通訳者のパフォーマンスを最高に保ち、お客様の利益が最大化することが我々の仕事だと認識しております。
ぜひ、お客様にも通訳者と円滑なコミュニケーションをとっていただき、最高の結果を導き出せるよう、通訳者とお仕事をする際の11の法則をおまとめしました。
今回の記事の参考元は、1983年6月15日に松村増美さんという故ケネディ大統領などの大物政治家の通訳を何度も務められたご実績のある通訳者の新聞記事です。かなり前の記事ではありますが、今日においても共感するところが大きく非常に参考になる記事でした。わたしの経験則も交えてご紹介いたします。
法則1
通訳者についつい話しかけていませんか?通訳者のコミュニケーションの相手は皆様のお取引先です。
通訳の現場で、ついつい通訳者に「彼にこう伝えてくれる?」「彼にこう尋ねてくれる?」「彼はどう思っているんだろう?」と質問されてくるお客様がいます。
通訳者にとって非常に困ってしまうケースです。このように、通訳者を介してコミュニケーションをとると、せっかくお客様とダイレクトにコミュニケーションをとっていただける大切な機会も台無しです。通訳者は空気だと思って自然に取引先に話しかけてください。
もう一つのリスクは、質問形式で通訳者に話しかけられてしまうと、その内容を一度、通訳者が取引先向けに内容を変換しなければなりません。通訳の品質自体も下がる可能性があります。
通訳者は「コミュニケーションをサポート」する立場であり、交渉人やインタビュアーの立場ではありません。
法則2
会話の内容は途中で止めないで、一つの文章をいいきってください
通訳者は基本的に文章ごとに通訳します。ですので、文章の途中で切ったり、止めたり、前半の文章から意図を覆すような内容になると、通訳がしにくくなります。
ご自身のお考えを明確にストレートに話しきってください。
通訳を使ったコミュニケーションの場合は、日本人的な感覚を捨て、欧米方式でコミュニケーションしていただけると通訳の質もアップします。
ポイントは、結論から伝えること。理解しやすい文章でストレートに伝えること。二重否定など文章を複雑にする言葉を使わないように気をつけていただけるとありがたいです。
法則3
メモを取らない通訳者にはご用心
よい通訳者は、スピーカーの話したポイントをメモにとめています。数字や地名などのキーワードをもとに、可能な限りオリジナルの文章のニュアンスや考えを忠実に伝えるよう通訳しています。
同じキーワードが繰り返し出現する場合はメモが役立ち、手を動かすことによって、記憶に残す効果があります。
同時通訳の場合は、もう1名の通訳者が、訳者が数字やキーワードを間違えないようサポートしあう目的でメモを取る場合もあります。
もしメモをとらないタイプの通訳者がいれば、用心されたほうがいいかもしれません。
法則4
事前の打ち合わせ(ブリーフィング)がミーティングの質を高める
通訳前の事前打ち合わせ(以下ブリーフィング)は、できる限り、いや必ず、お時間を作っていただきたいものです。
通訳者を雇うお客様の多くは忙しく、お役職が高く、お時間を確保いただけない場合もあります。このブリーフィングは、通訳者のためにというよりは、そのミーティングの成果を確実にあげることができるのでオススメしています。
通 訳者に提供いただく事前の資料は、非常に限られています。そしていつもぎりぎりです。通訳者は非常に少ない情報で会議に臨むことになります。もし、ご自身がプレゼ ンテーターだったらどうでしょうか?準備のできていないプレゼンほどひどいクオリティになることはご承知のことかと思いますが、通訳も全く同じです。
ここで通訳者として、ブリーフィングにて、あらためて確認しておきたいというポイントをご紹介いたします。
・スピーカーの方が質問しようとしていることやポイント
・会議やインタビューの目的とゴール、そして明確にしたいポイント
事前に、少しコミュニケーションをとるだけで、スピーカーの話し方やその方の人となりから通訳者もキャッチアップが早まります。開始直前から高いクオリティの通訳をご提供するためにたった5分でもブリーフィングのお時間は確保いただきたいと思います。
また、ブリーフィングは無料ではありません。多くの通訳者は現場についた時間から拘束時間としてカウントします。これで、ブリーフィングを躊躇す る方もいるかもしれません。しかし、ブリーフィングには通訳者のパフォーマンスを確実にアップさせる効果があります。通訳を使う機会が多い方は、こちらか らお伺いせずともブリーフィングのお時間を確保いただくことが多いです。
法則5
通訳者からの質問は、聞き流さずに説明してほしい!
有能な通訳者は会議の質を少しでも高めたいという思いから、いただいた資料での疑問点は確認します。ウェブで下調べができる情報も可能な限り目を通します。
例 えば、業界や社内、プロジェクトで使用する独自の用語。しかし、この質問に対して「そのまま直訳してくれればいい」というご回答をいただく場合がありま す。たしかに英語4文字の用語であればそのまま通訳すればいいのかもしれません。しかし、その中身を理解しないで通訳をする場合と理解して通訳する場合で は、通訳の質が異なります。
ぜひ、通訳者の疑問にはご回答いただきたい!
法則6
聞き取りやすくはっきりと話すことが取引先にもよい印象を
当たり前のようですが、日々社内で使っている製品名、施設名、会議名は意図的にゆっくりとはっきり伝えられることがコミュニケーションでは必要です。
さらさらっとしゃべってしまうと、通訳者は聞き取れない可能性があることはもちろんですが、ついては取引先の方にもよい印象を与えないというリスクがあります。
法則7
時間が迫ったら、話すスピードを速めるのではなく伝えたいポイントをおさえて
気づいたら残り5分!焦る気持ちはわかりますが、話すスピードは変えずにこういってはいかがでしょうか?
「時間が限られておりますので、残りは資料に目をお通しください。簡単に最後のポイントを要約させていただきますと…….。」
話すスピードをただあげてしまうと、通訳の品質は落ちます。重要なことの伝え漏れのないようメッセージを発信してください。
法則8
スピーチ原稿のコピーを通訳者に提供する
スピーチの原稿は、開始10分前まで赤字が入ったりするものです。原稿のコピーをご提供いただけますか?とお願いしてもなかなかいただけることがありません。
ドラフトでも結構です。骨子のみでも結構です。事前に原稿の内容を把握するだけで、通訳の質はぐんとアップします。 そして不思議なことに手元に資料があるだけで、通訳者の気持ちも落ち着くものなのです。
法則9
アドリブの場合はこっそり教えてください
原稿を読むタイプのスピーチでも、とっさのアドリブをはさむ場合もあるでしょう。
その時はこっそり通訳者へもサインを送ってください。原稿にコメントを入れる方法や声のトーンを変える、通訳者と事前にサインを決めておく方もいます。
法則10
日本人でないと理解できない表現は避けた方が懸命
ビ ジネススピーチでは使う機会はほとんどないと思いますが、日常会話で使うようなカジュアルな表現や、日本人ネイティブでなければ理解できない流行りの表現 は避けたほうが懸命です。日本人の文化的背景をもっていなければ通訳したところで理解できない表現もあります。そういった表現をわざわざ通訳することで混 乱を招くケースもあります。日本人的な独特な表現は、ビジネスでは避けた方が懸命です。
法則11
ジョークやだじゃれは事前に通訳者に相談を
日本人同士でも、初対面ではジョークやだじゃれでコミュニケーションはとりませんよね。海外の方も多くは同様です。さほど親しくない関係で会議や会食でジョークを飛ばしたりはしません。
もし、どうしてもこのだじゃれを伝えてほしい!というご希望がある場合は、通訳者にぜひ事前にご相談ください。海外の方にもご理解いただけるニュアンスに通訳できるかもしれません。
通訳者の多くは非常に有能であるがゆえに、事前資料が全くない、スピーカーの方が早口で専門用語ばかりを並べる…そんな過酷な状況でも乗り切ってしまうこともあります。
しかし、それは本来の実力を発揮できず、お客様が損をしている可能性があります。もしこの法則の半分でもご理解いただければ、通訳者の品質は格段にアップします。もちろんその結果は、お客様のお取引にも大きな成果となって現れるでしょう。
ぜひ、ご参考ください。
Photo Credit:
European Parliament
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Mia Omatsuzawa 大松澤実絵
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