あなたの英訳文と段落は長すぎませんか?

日本語のビジネス文書を英語に翻訳する際、最もよくある課題の一つが、文や段落の長さの調整です。日本語では、一つの文の中に複数の情報や条件、結論を含めることが一般的であり、文構造も複雑になりがちです。こうしたスタイルは日本語では自然ですが、そのまま英語に直訳してしまうと、読みづらく冗長な印象を与えてしまうことがあります。

特に、投資家向け広報(IR)において効果的な英語を用いるには、簡潔さが重要です。各国の政府が発行する可読性やアクセシビリティに関するガイドラインでも、文の長さやプレーン・イングリッシュ(わかりやすい英語)の使用が推奨されています。短く整理された文や段落は、読み手の関心を引き、理解を助けます。日本語から英語への翻訳では、文と段落の構成を見直すことが、グローバルなステークホルダーにメッセージを正しく届けるうえで不可欠です。

とはいえ、文や段落が短すぎると、内容が浅く感じられる可能性もあります。では、どのようにバランスを取ればよいのでしょうか。まずは、英文ビジネス文書における基本を押さえることから始めましょう。

OWLでは、英語への翻訳時には、1段落あたり34文、1文あたり平均20を目安とした構成を推奨しています。これは、投資家向けおよび企業向けの英文コミュニケーションにおいて、プレーン・イングリッシュ(わかりやすい英語)を採用することに基づいたものです。プレーン・イングリッシュとは、不必要な複雑さを避けた、明確で簡潔な表現のことを指します。読み手が内容を一度で理解できることを目的としており、特に開示資料や報告書など、海外のステークホルダー向けの資料では重要な書き方です。

このような基準は、米国証券取引委員会(SEC)によっても推奨されています。SECは、投資家保護と企業情報開示の透明性確保を目的とする機関であり、難解な金融文書に対する懸念を受けて、1998年に「Plain English Handbook(プレーン・イングリッシュ・ハンドブック)」を発行しました。このハンドブックでは、「可能な限り短い文を使うこと」が推奨されており、簡潔な文章は理解を助け、特に法務・財務文書における誤解のリスクを軽減するとしています。

出典:米国証券取引委員会(SEC『A Plain English Handbook: How to Create Clear SEC Disclosure Documents』(1998年)https://www.sec.gov/pdf/handbook.pdf

文の長さに変化をつけることも忘れずに。
短い文は重要なポイントを端的に伝え、長めの文は背景やニュアンスを補足する役割を果たします。これらをバランスよく組み合わせることで、読みやすくリズムのある文章になります。文章の流れに変化が生まれ、読み手の関心を引きつけると同時に、理解の助けにもなります。

例)

日本語 (一文)

長年にわたり蓄積してきた高度な技術と専門知識を活用するとともに、気候変動や資源不足、人口動態の変化といった社会課題に取り組みながら、イノベーションの促進、グローバルなパートナーシップの拡大、そして急速に変化する市場環境においてレジリエンスを確保するための堅実なガバナンス体制の維持を優先する長期経営ビジョンに沿った取り組みを実施することで、持続可能な成長を達成し、企業価値を向上させることを目指します。

英訳 (一文)

By leveraging our strengths in advanced technology and expertise accumulated over decades, while simultaneously addressing societal challenges such as climate change, resource scarcity, and demographic shifts, we aim to achieve sustainable growth and enhance corporate value by implementing initiatives aligned with our long-term management vision, which prioritizes fostering innovation, expanding global partnerships, and maintaining robust governance structures to ensure resilience in a rapidly evolving market environment. 

調整した英訳 (複数の文)

We leverage decades of expertise and advanced technology while addressing societal challenges including climate change, resource scarcity, and demographic shifts. Guided by our long-term management vision, we prioritize fostering innovation, expanding global partnerships, and maintaining robust governance. These initiatives aim to ensure resilience in a rapidly evolving market while achieving sustainable growth and enhancing corporate value.

Flesch-Kincaid(フレッシュ・キンケイド)可読性スコアとは?なぜ重要なのか?

Flesch-Kincaid Reading Ease スコアは、文章の読みやすさを評価するための強力なツールです。このスコアは、文の長さと語の長さを分析し、どれだけ簡単に内容が理解されるかを判断します。スコアが高いほど、読みやすさが高いことを意味します。

Microsoft WordFlesch-Kincaidスコアを確認する方法

  1. Wordファイルを開きます。
  2. ファイル」タブをクリックし、「オプション」を選択します。
  3. 言語」の項目で、英語の言語パックがインストールされており、校正ツールが有効になっていることを確認します。
  4. 文章校正」タブに移動し、「文書の読みやすさを評価する」にチェックを入れます。
  5. 校閲」タブから「スペルチェック」を実行すると、Flesch-Kincaidスコアが表示されます。

※ご使用のMicrosoft Wordのバージョンによっては、スペルチェックを完了した後に「インサイト(Insights)」を選択して、読みやすさスコアを確認する必要がある場合があります。

Flesch-Kincaidスコアが60〜70の文章は、会話調で読みやすいとされています。しかし、OWLでは、IRコミュニケーションにふさわしい専門性と読みやすさのバランスを保つために、日本語から英語への翻訳においては、Flesch-Kincaidスコア35〜40を推奨しています。このスコア帯であれば、文体に一定の洗練さを保ちながら、読み手にとって親しみやすい英語に仕上げることができます。

なお、英語で一から書く場合には、Flesch-Kincaidスコア50〜60が適しているとされています。

要点まとめ

  • Flesch-Kincaid可読性スコア:IR翻訳におけるプロフェッショナルな読みやすさを確保するには、3540を推奨
  • 平均文長1文あたり20を目安に、読みやすさと情報量のバランスを確保
  • 段落の長さ1段落につき34で、読み手にとって負担の少ない構成に

こうしたガイドラインを取り入れることで、英語開示文書が本来のニュアンスを損なうことなく、海外の投資家にも伝わる内容になります。

実践ガイド:まずはここから始めましょう

IRコミュニケーションの質を高める準備はできていますか?以下のステップから始めてみましょう。

  1. 自分の文章を分析する
     Microsoft WordのFlesch-Kincaidツールを使って、読みやすさスコアを確認しましょう。
  2. バランスを意識して編集する
     長すぎる文は短く分け、逆に短すぎる文はつなげて、読みやすく自然な流れに整えます。
  3. フィードバックを受ける
     英語に詳しい同僚に見てもらう、または英文校正ツールを活用して客観的なチェックを行いましょう。
  4. 改善の記録を取る
     可読性スコアを定期的に記録し、自身の改善状況を数値で把握しましょう。

一緒に、あなたのストーリーを世界へ

OWLは、IR担当チームの皆さまがタイムリーで伝わる英語開示を作成できるようサポートしています。私たちの専門知識により、貴社のストーリーを、正確かつ明確に世界の投資家へ届けることが可能になります。
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Jessica Azumaya

Writer/EditorOne World Link, Inc.
One World Link (OWL) specializes in delivering precise and effective English translations for corporate communication. With over 14 years of experience in investor relations and corporate communications, OWL helps Japanese companies build stronger relationships with global investors. From earnings reports and financial statements to executive messages and ESG narratives, OWL provides accurate and professional translations tailored to the needs of publicly traded companies. By providing clear and effective corporate messaging, OWL helps bridge communication gaps and foster trust and understanding between Japanese companies and global stakeholders. One World Link offers free English business writing assessments for publicly disclosed English materials. To request a free assessment, visit https://oneworldlink.jp/satei.php#contact or call 03-5534-9011.

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