ドラフト作成前に考えるべきこと:ビジネスおよびIRコミュニケーションにおける目的意識

年次報告書の作成を開始するにあたり、最終的な英訳についても一度立ち止まって考えることが重要です。

日本語原稿の作成前であれば、翻訳を意識するのは早すぎると感じるかもしれません。しかし、この段階こそが、翻訳を見据えて検討する最も効果的なタイミングです。

英語の質は、翻訳者のスキルだけで決まるものではありません。構造の整った日本語原稿も同様に重要な要素です。論理的な日本語は、論理的な英語につながります。原文の構造が弱い場合、翻訳者の能力に関わらず、その影響は英語にも表れます。

本記事では、投資家向け資料を作成する前に検討すべき3つの要素、すなわち「読み手」「目的」「成果」について整理します。

1. 読み手(Audience)

まず、読み手を明確にします。誰がその資料を読むのかを特定することが重要です。

主な読み手を定義することで、レポートにおけるトーン、用語、説明の深さを適切に設計することができます。

主な読み手には、機関投資家、アナリスト、海外のステークホルダーなどが含まれ、それぞれ期待値や自社に対する理解度が異なります。一方で、レポートはグローバルの従業員など、より広い層に届く可能性もあります。

Harvard Business School Onlineの記事では、年次報告書は必ずしも金融の専門家だけを対象としたものではないと指摘されています。

「投資家でなくても、企業に勤める従業員にとって年次報告書は有益な情報源となる。自社の業績や、自身の行動が事業目標にどのような影響を与えているかを理解することで、昇進やキャリアアップの機会を自ら後押しすることができる。」

この内容はビジネススクールの学生や従業員を対象としていますが、重要なポイントは、読み手が必ずしも財務や市場分析、企業価値評価の専門家に限らない可能性があるという点です。

より幅広い読み手を想定する場合は、明確な構造と分かりやすい表現を重視する必要があります。一般的に知られていない専門用語、複雑すぎる財務用語、社内用語、説明のない略語の使用は控え、初めて読む人でも無理なく内容を追えるように情報を整理して提示することが重要です。

2. 目的(Objective)

資料が何を達成すべきかを明確にします。

同じくHarvard Business School Onlineの記事では、年次報告書は他の財務データとは異なり、マーケティング資料としての側面を持ち、編集的要素やストーリーテリングが含まれると説明されています。

つまり、年次報告書は単に情報を提示するためのものではありません。財務実績、戦略、そして事業全体を通じた一貫したストーリーを伝える役割を担います。しかし、明確な目的がなければ、主旨は本来伝えるべき方向性を示さない情報の中に埋もれてしまいます。

レポートの各セクションごとに目的を明確にすることで、意図のない説明によって日本語原稿が冗長になることを防ぐことができます。

例えば、大幅な減益が発生した場合、財務レビューではその主な要因の説明に焦点を当てる一方で、CEOメッセージや各事業セグメントの説明では、今後どのように収益を回復・拡大していくかを示すことが考えられます。

このように、あらかじめ意図を定義しておくことで、レポート全体を通じてストーリーの明確さと一貫性を維持することができます。

3. 成果(Outcome)

読み手に対して、読後に何を考え、何を理解し、どのような行動を取ってほしいのかを明確にします。

年次報告書を通じて、投資家に自社の成長ドライバーをどのように理解してほしいのか。アナリストにより高い確度で将来の業績をモデル化してもらいたいのか。それとも、自社の戦略や実行力に対する信頼の醸成を目的としているのか。

各セクションが、この成果に向かって読み手を導く構成になっているかを確認することが重要です。見出しやタイトル、用語の選択に至るまで、レポート全体で一貫した方向性を持たせる必要があります。

その実現には、明確なテーマ設定が有効です。強いテーマがストーリーを支え、読み手に伝えるべき要点の理解を促す理由については、当社ブログ(テーマに関する記事)をご参照ください。

まとめ

ドラフト作成前に、「読み手」「目的」「成果」を明確に定義することが重要です。このプロセスは、日本語原稿と最終的な英訳の双方の質を高めます。投資家向けコミュニケーションの質は、言語力だけでなく、意図の明確さに大きく依存します。

事前にメッセージの構造を整理することで、投資家が迅速に理解し、信頼しやすいレポートを作成することが可能となります。


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Jessica Azumaya

Writer/EditorOne World Link, Inc.
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