ESG(環境・社会・ガバナンス)開示をめぐる動きは、近年ますます加速しています。IR担当者として、自社がこうした動向に遅れず対応し、適切な情報開示を行うための体制を整えることは、ますます重要になっています。2025年には、ESG開示に関する主要なフレームワークの大幅な改訂が予定されており、今のうちから準備を進めておくことが、投資家からの信頼を維持し、企業としての透明性への姿勢を示すうえで不可欠です。
本記事では、2025年に変更が予定されている4つの主要なESGフレームワークを取り上げます。
Key ESG Framework Overhauls in 2025
1. B Lab Global(Bコーポレーション認証)
Bコーポレーション認証制度の改訂

Bコーポレーション認証制度は、現在第7回目となる基準改訂が進められています。今回の改訂では、企業規模に応じたESGパフォーマンスの**最低基準値(minimum performance thresholds)**が導入される予定です。
これまでの認証制度では、全体スコアが一定以上であれば認証を取得でき、項目ごとの強弱を相殺することが可能でしたが、今後は各項目で一定の水準を満たすことが求められる方向です。
(出典:Heather Clancy, Trellis, 2025年1月7日)
B Labは、新しい認証基準の詳細を2025年初頭に公表する予定です。
▼制度変更に関する詳細はこちら(いずれも英語サイト):
B Corporation公式サイト:新しいパフォーマンス要件
https://www.bcorporation.net/en-us/standards/performance-requirements/
Trellis記事:「新しいB Corp基準について知っておくべきこと」https://trellis.net/article/heres-what-know-about-new-b-corp-standards/
2. 世界資源研究所(WRI)および持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)
温室効果ガスプロトコルGreenhouse Gas Protocol

世界的に広く利用されているカーボンアカウンティングの枠組みである温室効果ガスプロトコルは、10年以上ぶりとなる大規模な改訂を進めています。
2024年にはガバナンス体制が大幅に見直され、新たに運営委員会(Steering Committee)、独立基準委員会(Independent Standards Board)、および**4つの技術作業部会(Technical Working Groups)**が設立されました。
(出典:Greenhouse Gas Protocol公式サイト)
今回の見直しでは、以下のような内容が改訂案として検討されています:
- スコープ3排出量に関する報告要件の強化
- 企業向け排出量会計ルールの更新
- 再生可能エネルギークレジットの新たな取り扱い手順
S&P500企業のほぼすべてがこのプロトコルを利用していることから、今回の見直しはグローバルな排出量報告に大きな影響を及ぼすと見られています。改訂案(パブリックコンサルテーションドラフト)は2025年中に公開され、最終的な基準の確定は2026年末を予定しています。
(出典:Heather Clancy, Trellis, 2025年1月7日)
▼詳細はこちら(いずれも英語サイト):
運営委員長および副委員長からの2025年1月メッセージ
https://ghgprotocol.org/blog/2024-reflections-and-looking-ahead-letter-ghg-protocol-steering-committee-chair-and-vice-chair
企業向け基準およびガイダンス改訂プロセス
https://ghgprotocol.org/ghg-protocol-corporate-suite-standards-and-guidance-update-process
3. 国際標準化機構(ISO)
ISOネットゼロ・スタンダード

ISO(国際標準化機構)は、2022年のCOP27においてネットゼロ・ガイドライン(IWA 42:2022)を発表しました。現在、このガイドラインを基にした正式な国際標準の策定が進められており、2025年11月に開催されるCOP30での公表が見込まれています。ただし、それに先立ち、2025年中にパブリックコンサルテーション(意見募集期間)が設けられる予定です(出典:ISO公式サイト、2024年6月/Net Zero Now)。
今回の改訂では、カーボンオフセットに依存するのではなく、あらゆる温室効果ガスの削減を重視すること、ならびに継続的な検証の実施が求められる見通しです。
▼詳細はこちら(いずれも英語サイト):
ISO:現行ネットゼロ・ガイドライン(IWA 42:2022)https://www.iso.org/obp/ui/en/#iso:std:iso:iwa:42:ed-1:v1:en
ISO公式:新スタンダード策定に関する発表(2024年6月)https://www.iso.org/contents/news/2024/06/netzero-standard-underway.html
Net Zero Now:ISOネットゼロ標準に関する最新情報
https://netzeronow.org/post/new-iso-net-zero-standard-announcement
Trellis:ISOのネットゼロ標準で知っておくべきこと
https://trellis.net/article/what-you-should-know-about-isos-forthcoming-first-net-zero-standard
4. Science Based Targets initiative (SBTi)
企業向けネットゼロ・スタンダード
(Corporate Net-Zero Standard)

SBTi(Science Based Targets initiative)は、最新の気候科学に基づき、企業向けネットゼロ・スタンダードの見直しを進めています。 改訂後のスタンダードでは、企業に対して2030年までに温室効果ガス排出量を半減し、2050年までに90%削減することが求められる見通しで、カーボンオフセットの使用は最小限に制限される予定です。ただし、オフセット利用の容認範囲をめぐる議論が続いているため、次期バージョンの発表は延期となっています。
(出典:Heather Clancy, Trellis, 2025年1月7日)
SBTiの公式サイトによると、改訂版スタンダードは2回にわたりパブリックコンサルテーションが実施される予定で、第1回目は2025年3月以降に開始される見込みです。また、企業が改訂案を試験的に導入するための「テストドライブ」制度への応募も受け付けられる予定です。
2025年2月時点では、SBTiがステークホルダーからの追加フィードバックを募集しています。
(出典:Science Based Targets公式サイト)
▼詳細情報(いずれも英語サイト):
SBTi:2025年2月アップデート|ステークホルダー向け意見募集https://sciencebasedtargets.org/news/corporate-net-zero-standard-revision-sbti-releases-new-opportunities-for-stakeholders-to-input
ESG Today:SBTi、改訂スケジュールを延期
https://www.esgtoday.com/sbti-pushes-back-timeline-for-new-corporate-net-zero-standard/
日本企業への示唆
ESG開示を担当するIR部門にとって、今回紹介した各種フレームワークの改訂は、以下の対応の必要性を強く示しています。
- グローバル基準との整合性強化
ESGに関する報告基準の国際的な整備が進む中、自社の情報開示をこうした基準と整合させることが、報告内容の一貫性やステークホルダーからの信頼性向上につながります。 - カーボン排出・ネットゼロ開示の高度化
気候関連リスクへの注目が高まる中、排出量やネットゼロに関する指標・開示内容を財務情報にどう統合するかが、今後の開示の質を左右する重要な要素になります
- データの正確性と比較可能性の確保
規制当局の監視が厳格化する中で、ESGデータの信頼性・検証可能性を高め、グローバルなベストプラクティスに沿った運用体制の整備が求められます。
IR担当者が今すぐ取り組むべきアクション
急速に進化するESGの潮流の中、IR担当者には企業の透明性とコンプライアンスを確保する最前線の役割が求められています。特に、2025年に予定されている各種フレームワークの大幅な改訂は、投資家との信頼関係を維持し、各国の規制要件を満たすうえでも極めて重要です。
以下のステップを実践することで、変化への対応力を高め、サステナビリティ報告の質と戦略性を強化することができます。.
- 現行のESG開示体制の評価
現在のESG報告書と各フレームワークの改訂内容を照らし合わせ、ギャップ(不足点)を洗い出す内部レビューを実施しましょう。 - 外部専門家との連携強化
ESG開示の国際的な期待に応えるために、コンサルタントや翻訳パートナーとの連携を活用することが効果的です。 - テクノロジーの活用による一貫性確保
ESGレポート作成において、専用の報告支援ソフトウェアや翻訳メモリツールを用いることで、言語・指標の一貫性を維持できます。 - 国際的な規制動向のモニタリング
主要なESGフレームワークや監督当局からの最新情報を継続的にフォローアップし、対応漏れを防ぎましょう。 - フレームワーク別の最新情報を定期的に確認
以下の公式情報源を定期的にチェックし、最新の動向を把握しておくことが不可欠です:
(ア)B Lab Global – Bコーポレーション認証基準
公式サイト:B Corporation Standards
(イ)Greenhouse Gas Protocol – GHGプロトコル更新情報
公式サイト:GHG Protocol Updates
(ウ)ISO – ネットゼロ・スタンダード
公式サイト:ISO Net-Zero Guidelines
(エ)Science Based Targets initiative(SBTi)– 企業向けネットゼロ基準
公式サイト:SBTi Updates
留意点
ESGを取り巻く環境は常に進化を続けており、本記事で紹介したアップデート内容の一部についても、今後さらに変更が加えられる可能性があります。
スケジュールが変更されることもあれば、業界からのフィードバックを受けて内容そのものが見直されることも想定されます。
そのため、規制当局からの発表、業界ニュース、専門家による議論などに継続的に目を向けることが、想定外の変更に柔軟に対応し、自社が常に一歩先を行くための鍵となります。
Jessica Azumaya
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