(English blog: The Rise of Storytelling in the Era of AI | One World Link)
近年、欧米企業のインベスターデーや決算説明会において、「storytelling」や「storyteller」といった言葉の使用が明確に増加しています。企業の求人情報にも同様の変化が見られ、AIの活用が進む中でも、ストーリーテリングを重要なスキルとして求める職種が増えています。つまり企業は、単なる情報開示ではなく、「どう伝えるか」を重視し始めているといえるでしょう。
Palantir Technologiesの会長であるピーター・ティール氏による過去のAIに関する発言が、ここ数カ月で再び注目を集めています。
AIは、言語分野よりも数学分野に大きな影響を与える可能性がある(*1)
実際に、AIは高度な数学問題を解くレベルに近づいています。
一方で、企業コミュニケーションの領域では、むしろ逆の動きが起きています。
- AI活用は進む
- しかし「人が伝える価値」への需要は増加
このギャップこそが、「ストーリーテリング需要」の背景です。
米国では、銀行をはじめとする金融機関においてAIが大きな関心事となっており、AIの活用を理由とした人員削減や、その可能性に関する発表が相次いでいます(*2)。さらに、Scientific Americanの記事(*3)によれば、あるAIモデルが非公式の2025年国際数学オリンピックのテストにおいて、6問中5問を解いたと報告されています。
では、「言語系の人材」はどうでしょうか。また、IR担当者として、自身をそのような立場にあると捉えることはあるでしょうか。AIの進展は、企業コミュニケーションやライティングに関わる職種にどのような影響を与えているのでしょうか。
2025年12月、Wall Street Journalは米国企業におけるストーリーテリングの重要性に関する記事を掲載しました。同記事では、GoogleやMicrosoftなど、多くの企業が「ストーリーテラー」を求めている点が紹介されています(*4)。
記事の中では、次のように述べられています。
「マーケティング企業やテクノロジー企業は、これまでも他分野の誇張的な表現を取り入れ、企業内の職種をより魅力的に見せてきた。テクノロジー・グル、開発者ニンジャ、SEOロックスター、さらにはデジタル・プロフェットといった呼称の流行はすでに過去のものとなっているが、給与制のコミュニケーション担当者を『ストーリーテラー』と呼び、その実践としてのストーリーテリングは、むしろ人気を高めている。」
つまり、従来のライティング業務の価値に疑問が投げかけられる一方で、企業はストーリーテリングに関わる人材の採用を引き続き強化しています。では、ストーリーテリングとは具体的に何を指し、誰がその担い手となるのでしょうか。
ストーリーテリングとは、情報を単に個別の事実として提示するのではなく、アイデア同士をつなぎ、明確で引き込まれるような一貫した物語として伝えることを指します。ストーリーテラーとは、その物語を設計し伝える役割を担う人材であり、何を強調するか、どのように情報を構成するか、どのように読み手にとって分かりやすく魅力的に伝えるかを判断します。
企業の文脈では、ステークホルダーが企業の戦略、業績、今後の方向性を一つの一貫したストーリーとして理解できるように情報を構成することが、ストーリーテリングに該当します。
このようなコミュニケーションを、「編集」や「広報」といった従来の用語ではなく、「ストーリーテリング」と表現する動きが近年増加しています。
実際、Wall Street Journalによると、LinkedIn上の求人において「storyteller」や「storytelling」といった語を含む掲載数は、過去1年間(2024年11月27日〜2025年11月26日)で倍増しました。記事掲載時点では、マーケティング関連の求人が約50,000件、メディアおよびコミュニケーション関連が約20,000件に達しています。
同記事では、この変化の背景についても示唆されています。情報の受け取り方の変化が一因と考えられます。読者は従来の新聞から離れ、企業はソーシャルメディアなど自社のチャネルを通じて直接情報発信を行うようになっています。
こうした変化は、読み手と企業の双方におけるコミュニケーションのあり方に影響を与え、ひいては企業がこれらの役割をどのように定義し、人材を採用するかにも影響を及ぼしていると考えられます。
金融データおよび分析サービスを提供するFactSetも、インベスターデーや決算説明会において、「storyteller」や「storytelling」といった言葉の使用頻度が増加していると報告しています。また、CEOや企業の間では、「editorial」や「press relations strategy」といった従来の用語から、「storytelling」や「content strategy」といった表現へとシフトが見られます(*4)。
FinTech企業であるChime社の最高コーポレートアフェアーズ責任者であるJennifer Kuperman氏は、次のように述べています。「“editorial”という言葉は、企業の情報発信を“記事を書くこと”といった限定的な活動として捉えがちです。しかし実際には、企業のメッセージは記事だけで伝えるものではありません。ストーリーは、ソーシャルメディア、ポッドキャスト、経営陣の発信、イベント、メディア対応など、さまざまな手段を通じて伝えることができます。」(*4)。
これらの動向を総合すると、企業はコミュニケーションを、ステークホルダーの理解を形成する手段として捉える傾向を強めているといえます。投資家向け広報や企業コミュニケーションに携わる担当者にとって、このストーリーテリングへのシフトは、英語開示の書き方や情報の提示方法に対する期待水準の高まりを意味します。
まとめ
AIは急速に進化していますが、その一方で、AIへの依存が高まることによる不信感やリスクも指摘されています。企業は、より人間らしく信頼性の高いコミュニケーションを通じてターゲットとする読み手にアプローチしようとする傾向を強めており、その結果、ストーリーテリングを重視する役割への需要が高まっています。
ピーター・ティール氏が示唆したように、AIは高度な数学的課題の解決に近づいているかもしれません。しかし、ライティングにおいては、依然として人の役割が不可欠です。
この変化により、英語でどのように自社のストーリーを伝えるかの重要性は一層高まっています。IR開示文書は正確な情報を提示するだけでなく、主要なメッセージを明確で一貫したストーリーとして構成する必要があります。これは原文と英訳文の双方において求められます。
One World Linkでは、お客様のストーリーを世界に向けて伝えることを重視しています。
日本語から英語への翻訳を通じて、明確で自然、かつ投資家に適したストーリーとして伝わるように、「人」と「AI」の両軸で、企業の英語開示を支援しています。
ご不明点がありましたら、お気軽にお問い合わせください。英語での情報発信が自社のストーリーを的確に支えるものとなるよう、サポートいたします。
出典
1. YouTube video
Mercatus Center. (2024, April 17). Peter Thiel on political theology | Conversations with Tyler [Video]. YouTube.
https://www.youtube.com/watch?v=vfbndRTlsg4
2. Yahoo Finance article
Ma, J. (2026, March 8). Peter Thiel warned AI is coming for math people before word people. Banks have already said smaller headcounts are possible. Yahoo Finance.
https://finance.yahoo.com/news/peter-thiel-warned-ai-coming-180944036.html
3. Scientific American article
Reihl, E. (2025, August 7). AI took on the Math Olympiad, but mathematicians are not impressed. Scientific American.
https://www.scientificamerican.com/article/mathematicians-question-ai-performance-at-international-math-olympiad/
4. Wall Street Journal article
Deighton, K. (2025, December 12). Companies are desperately seeking storytellers. The Wall Street Journal.
https://www.wsj.com/articles/companies-are-desperately-seeking-storytellers-7b79f54e
Mia Omatsuzawa 大松澤実絵
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