前回のブログでは、東京証券取引所(東証)の開示の規制変更とその背景について取り上げました。東証の調査(英語ページ)によると、多くの海外投資家が、日本企業の英文開示の「タイミング」と「量」について不満を抱いていることが明らかになっています。
今回はもうひとつの重要なポイント、**開示の「質」**について深掘りしていきたいと思います。
調査結果からもわかるように、投資家は「正確でプロフェッショナルな自然な英語」を求めています。しかし、現状はどうでしょうか?
今回は、投資家が実際にどのような課題を感じているのか、リアルな声をご紹介しながら、英語開示の重要性を改めて考えていきたいと思います。
投資家が感じるフラストレーションとは?
会社の開示資料を概要やサマリーだけで済ませていませんか?
英語開示をスピーディに出せばそれだけでも一見、効率的に思われるかもしれませんが、長期的には大きなリスクを伴います。海外投資家は、十分な情報がなければ適切な投資判断ができないからです。不十分な英文開示は、投資の障壁となってしまいます。
実際の投資家の声を見ていきたいと思います。
![]() | 「英語でリアルタイムの質の高い情報を入手することはまだ難しく、翻訳に頼らざるを得ないことも多い。」 (欧州⼤陸拠点・運用会社・投資担当) |
![]() | 「多くの場合、日本語での開示が英語よりもはるかに優れている。」 (英国拠点・運用会社・調査担当) |
![]() | 「英語での情報開示が⼗分に⾏われている会社は少ない。英語と日本語でどのような情報が欠けているのかさえ明確でないこともある。」 (英国拠点・ヘッジファンド・投資担当) |
![]() | 「多くの会社が、⽇本語の開示よりも、英文開示で開示する情報は明らかに少ない・・・」 (英国拠点・運用会社・調査担当) |
![]() | 「⽇本がグローバルマーケットでリーディングするには、⼀次開示は英語で⾏うべきである。欧州の大企業が重要な情報開示を自国フランス語やドイツ語で最初に公表しているのを⾒たことがない。⽇本は、⽇本語の情報開示を優先することで、外国⼈投資家よりも国内投資家の⽅が重要だというシグナルを世界に発信している。」 (⽇本拠点・運用会社・投資担当) |
このように、多くの海外投資家が、「要約版」や「情報不足の英語開示」に不満を感じているようです。必要な情報を英語で十分に得られなければ、投資先を変えてしまう可能性もあります。適切な情報開示が、投資家の信頼をつなぎとめる鍵になるのです。
生成AIでの翻訳は解決策になるのでしょうか?
DeepLやChatGPTなどの生成AIを活用して、IR資料や開示情報を翻訳されていませんか?
機械翻訳を活用すれば、一見「迅速かつ網羅的な開示」ができるように思われるかもしれません。
しかし、投資家の意見を聞くと、その期待とは裏腹に、「機械翻訳では不十分」との声が多く上がっています。
![]() | 「コールは英文の書き起こし付きでは公開されず、英文が開示される場合でも機械翻訳されたものであることが多く、メッセージの意味をうまく捉えることができない。」 (英国拠点・運用会社・調査担当) |
![]() | 「IRプレゼンテーションは機械翻訳ツールでの翻訳が困難であるため、英文開示の重要性が高い。」 (米国拠点・運用会社・調査担当) |
![]() | 「決算短信や適時開示書類は非常に重要であるため、機械翻訳に任せることはできない。」 (米国拠点・運用会社・調査担当) |
![]() | 「日本語資料の機械翻訳に時間を消費する」 (欧州⼤陸拠点・運用会社・投資担当) |
![]() | 「IR説明会資料は、機械翻訳を使⽤して英語に翻訳するときに理解することが非常に困難であるため、翻訳することが最も重要である。加えて、IR説明会資料はその会社が何をしているのか、どのように⾃らを表現しているのか、戦略などを理解する上で最も重要であると思う」 (米国拠点・ヘッジファンド・調査担当) |
投資家が機械翻訳された資料を読む場合でも、英語に翻訳されていない資料を投資家が自ら機械翻訳して読む場合でも、本来の意味が正しく伝わらないことがよくあります。特に、日本語から英語への機械翻訳は、不自然で分かりにくい表現になりがちで、大幅な修正が必要になることも少なくありません。たとえひとつひとつの単語が丁寧に翻訳されていたとしても、全体の意味が誤って伝わることもあります。
オーストラリア国立大学豪日研究センター研究員であり、日本証券アナリスト協会の専務理事(代表理事)である神津多可思氏は、東アジアフォーラムにおいて、近年のAIの進歩と、今後の東証の規制変更への潜在的な影響について、次のようにご指摘されています。
「AI翻訳の進歩により、日本語から英語への言語の壁は低くなるだろう。しかし、もうひとつの課題が残る。それは、英語圏と日本語圏では“説明や説得のロジック”が異なることだ。日本語では完璧な原稿であったとしても、英語では、理解されたとしても、それほど注目はされないかもしれない。単に正確に翻訳するだけでは不十分であり、グローバル・スタンダードに沿った構成や表現が求められる。それは企業経営情報の英文開示でも同じことである。」
(出典:East Asia Forum)
つまり、英語と日本語では、情報の伝え方がそもそも違うため、単なる翻訳ではなく、論理の流れや文章の組み立て自体を英語の基準に合わせる必要があるということです。効果的な翻訳をするためには、単に言葉を置き換えるのではなく、文章の構成を工夫し、内容の順序を整理し、明確に伝わるようにすることが大切なのです。このプロセスには、やはり人の手による細やかな調整が欠かせません。急いで機械翻訳に頼るだけでは、不十分になってしまいます。特に投資のような重要な判断をする場面では、文章の正確さ、文脈の理解しやすさ、そして、明確な表現が求められるのです。
2025年4月はすぐそこです! 今のうちに英語開示を見直しましょう!
2025年4月が目前に迫っています。東証の新ルールにより、プライム市場の上場企業には日本語と英語の同時開示が義務付けられます。つまり、英語での開示を後回しにすることは、もはや許されません。
海外投資家の信頼を得て、長く関係を築いていくためにも、今こそ英語開示を真剣に考えるタイミングです。明確で質の高い翻訳は、「この企業は国内だけでなく、すべての投資家を大切にしている」というメッセージになります。
- 英語開示は十分な情報量を確保できていますか?
- 機械翻訳に頼りすぎて、誤解を生んでいませんか?
- 投資家にとって分かりやすい構成になっていますか?
質の高い英語開示を実現するには時間がかかりますが、今のうちに整えておけば、あとで焦ることなくスムーズに対応できます。2025年4月の締め切りが迫って慌てる前に、今から準備を始めませんか?
「英語開示をもっと分かりやすくできるかな?」とお考えの方は、お気軽にご相談ください。海外投資家を惹きつける、クリアで魅力的な開示資料を作るお手伝いをさせていただきます。
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One World Link株式会社(OWL)は、コーポレートコミュニケーションにおける正確で効果的な英語の提供を専門としています。14年以上にわたるインベスターリレーションおよびコーポレートコミュニケーションの経験を活かし、日本企業がグローバルな投資家との強固な関係を築くための架け橋になることを目指しています。
OWLでは、決算報告書や財務諸表、経営陣のメッセージ、ESG関連文書など、上場企業のさまざまなIR開示文書における英文IR業務支援を行っております。企業のメッセージを明確に伝えることで、日本企業とグローバルステークホルダーとの間にあるコミュニケーションギャップを埋め、信頼と理解を深めるためのお手伝いをいたします。
また、企業様の様々な英文開示情報に対するビジネスライティング評価レポートを無償で提供しています。詳細については、[https://oneworldlink.jp/satei.php#contact]をご覧ください。

Mia Omatsuzawa 大松澤実絵

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