海外ロードショーベストプラクティスーアメリカ編(前半)

どのような投資家のためにプレゼンを作るか。長期投資家?あるいは短期の利回りを強調する投資家?というターゲットを特定することも大切ですが、プレゼンの目的は、会社のビジネスモデルとその業界におけるリーダーシップにおいて投資をしてもらうためのアピールです。基本、長期・短期どちらの投資家でも、求めている点はほぼ共通しているといってよいでしょう。 違いがある部分については、個別ミーティングを持つ、あるいは、その投資家向けのスライドを数枚補足してあげることで、十分にカバーできると思います。

どのようなプレゼンテーションでも重要な要素が二つあります。

その一つは当然ですがプレゼンの内容です。いわゆるコンテンツです。

これは、貴社のビジネスアイディア、市場規模、中長期ビジョン、それを達成する人財力などを説得する材料です。

そして、もう一つは、コンテンツを効果的に見せるフォーマットです。

説得力ある内容であっても、外国人投資家にとってわかりやすい、アピール性の強い見せ方をしなければなりません。

フォーマット

タイトルページ

効果的なタイトルページは、ただの会社のロゴやキャッチコピーを入れるだけではありません。

良いタイトルページは、貴社が提供するサービスやソリューションを一目でわかるように明記されていることが多いです。

タイトルページは、第一印象なので、ぜひ、良い印象を与える機会として有効に使っていただきたいです。

良い事例として 、Claim Compass をご紹介いたします。

We make airlines pay you $650 for screwing up your flight.

これに値するサービス(航空会社にクレームする代表サービス)に類似する例がどこにもないとすぐにわかると思います。

もう一つの事例をご紹介いたします。Onyx という美容系の会社です。

「Premier Beauty Subscription Service for Black Women」 とありますが、黒人女性のビューティー製品の定期購入サービス。この1文だけでOnyx社のビジネスモデルが分かります。

各スライドの記憶に残る見出しや小見出し

各サイトのコンテンツをまとめる見出しや小見出しを掲載することを推奨します。テキストで埋め尽くされたスライドには様々なデメリットがあります。伝えたいことを全てテキストで記載するのではなく、そのプレゼンの内容の中で、聞き手に一番記憶に残ってほしい情報を目に留まる表現で記載することが非常に重要です。これだけでプレゼン本来の目的を達成することはできると思います。

良い事例として、Trymの投資家プレゼンがありますのでご紹介させていただきます。

社内用語、業界用語を避ける

社内でのより良いコミュニケーションのツールとして社内特有の用語や表現、または業界用語、略語などを使うことが多いと思います。それは問題ないのですが、多くの日本企業は、対外コミュニケーションにおいても、このような用語や表現を使う傾向があるようです。このような表現は投資家とのコミュニケーションの妨げとなるだけではなく、聞き手や読み手に違和感を感じさせることもあるので、対外コミュニケーションにおいては、可能な限り一般的な言葉や表現を使うこと推奨いたします。

また、対外コミュニケーションのターゲットオーディエンスを事前に詳しく調べておくことで、どのような専門知識を持っているか、どのような表現をよく使われているかを知ることによって、プレゼンで使う言葉をそのオーディエンスに合わせることもできるでしょう。

基本的に避けるべき表現:

  • 社内用語
  • 専門用語(オーディエンスにもよりますが)
  • 業界用語
  • 略語(スペルアウトするのが好ましいです)
  • 差別的な表現 (性差別、人種差別、宗教など)

印象に残るビジュアル

効果的なプレゼンは、多くの情報を一つのビジュアルで伝えるのが特徴です。これには主に2つの背景が理由として存在します。

伝えるべき点をすべて文字で説明をしようとすると、見る側は疲れます。また文字を読むことに集中し、プレゼンターの話に耳を傾けることが疎かになる可能性があります。また、文字が多いスライドはプレゼンターがそのまま文章を読み上げてしまう傾向があるので、退屈で単調的なプレゼンになります。これがひとつの背景となります。ビジュアルの本来の機能は、プレゼンターのメッセージを補足することであるととらえる必要があります。

アップル社の伝道師と呼ばれ、著名な投資家としても知られているGuy Kawasai の投資家プレゼンにおける有名な助言に、「プレゼンスライド1ページにつき、最大六つの言葉に絞りなさい。」というものがあります。

もう一つビジュアルに力を入れるべき理由として、物事を相手に理解させるのに、視覚的なアプローチも非常に重要であり、コンセプトやアイディアを相手に理解させるのにビジュアルを使用することは一番の近道であるといえます。

多くの企業がストックフォトなどのサービスに頼り、コンテンツを使用されておりますが、オリジナル画像やグラフィックを使うことをお勧めいたします。いまはiphoneなどの携帯電話のカメラでも十分にクオリティの良い写真を撮ることができます。あとは、簡単な編集アプリ、ソフト、あるいはcanva.comのようなオンラインアプリを使い、容易に編集することが可能です。

グラフやチャート、表なども使うことも効果的ですが、なるべく細かいデータではなくて、 重要なキーとなるポイントを強調する形で作ることをお勧めいたします。

良い事例として、Crema.co をご紹介いたします。

またここで弊社として推奨させていただきたいのは、プレゼン用の資料とプレゼン後にメール等で送る資料の二種類を用意することです。メールで送信するプレゼンは、プレゼンターがいないので、読んで理解してもらうための説明文とスクリプトが必要です。

フォント

最後に、なぜか多くの日本企業では、英語のフォント、文字体に対してのこだわりが薄い印象があります。英語ではどのようなフォント、文字体を使うかで、見る側の印象に強い影響を与えます。日本企業の統合レポート、説明会資料などの英語の出版物やプレゼンに、日本語フォントのローマ字を使われているものをよく見かけます。これは 欧米人にとっては、かなり違和感を感じさせることがありますので意識いただけるとよいと思います。

どのフォントを使うかは各企業の自由ですが、サンセリフ体の文字体が欧米人には一番読みやすいといわれております。(弊社では、英文フォントはCentury Gothicを使用しております。)

当たり前のようで日本では意外と見逃されているようですのでお伝えしますが、英文プレゼンには英文フォントの使用を強くお勧めいたします。  

コンテンツ

ストーリー

人間はデータや数字を記憶するには限界がありますが、順序立てたストーリーはよく記憶に残るといわれています。貴社のビジネスモデルとなったインスピレーションをストーリーで伝えることで、 投資家の頭に残り、共感を引き出す働きかけにもなります。30秒から1分のストーリーで十分伝わります。貴社のUSP、可能性について投資家から共感をもたらす、一つの裏付けになるでしょう。

カテゴリーを定義

投資家は、「もう一つのOOOO」(例:もう一つのUBER、もう一つのfacebook)には興味がありません。新しいカテゴリー、新しいビジネスモデルを常に求めています。これは、マーケティングにも関連してくる話になりますが、自社でカテゴリーを定義し、そのカテゴリーの「第一人者」として、位置付けなければなりません。( The first OOOO, the only OOOO など。)

このことを欧米では、elevator pitch 、あるいは USP(Unique Selling Proposition)と呼びますが、これは数秒で、貴社のアピールポイントを(できる限り顧客の観点、あるいは市場の観点から)定義することです。

良い事例として、Worthix社のプレゼンをご紹介いたします。

消費者調査というよくあるビジネスモデルではありますが、そのなかで、AIを使った世界初の調査において、消費者の意図を測定することができるというアピールです。これこそがWorthix社が新しいカテゴリーを定義し、そのカテゴリーのNo.1であるという位置づけを主張しています。これが大切です。

重要指標

重要指標として、明示すべき内容には、貴社ビジネスにおけるターゲット市場(規模、成長性、見込み客の数等)と貴社の業績の情報があります。新しいビジネスモデルの場合、ターゲット市場がつかみづらいかもしれませんので、馴染みのある類似市場と比べると効果的です。キーデータのなかに、貴社が経営、重要なデータとして見ている数字も含めると良いと思います。

重要指標をビジュアルで見せる良い事例として、UBERに続く人気の配車サービス会社、LyftのS-1のご紹介をさせていただきます。

ご理解いただけたと思いますが、このように、一目で、分かりやすい見せ方にすることが重要です。小さなグラフや表でデータを詰めこむのではなく、重要データをハイライトして表示することが望ましいです。さらに他のデータを見せたい場合は、スライドの数を増やし、一つ一つ大きく見せるようにしていただきたいです。また、良い見出しや小見出しを付けることもお忘れなく。

顧客層と顧客の属性

貴社のビジネスモデルが、どれだけターゲット市場において、ニーズがあるのかをアピールすることも重要です。

客層とは、ターゲットとする顧客のカテゴリーです。顧客の属性というのは、ターゲット顧客の具体的な性質です。しかし、今回のレポートを作成するにあたり、米国企業100社ほどのプレゼンデータを調査しましたが、ぜひ貴社にこのように真似ていただきたいと思えるほど、良い事例は、一つもなかったのが実情です。大きな問題や想定されるリスクを定義し、それを解決するための説明をしているプレゼンはたくさんありましたが、実際、ターゲットとなる顧客層や属性を説明する例はありませんでした。これは、大きな欠点だと思いますし、逆を言えば、貴社が率先して、これを定義して説明することで、グローバル市場において、他社との差別化ができる最良の機会であるといえるでしょう。

持続性、社会的問題解決

特に長期投資を考える投資家は、持続性と社会的問題解決に関心を持っております。米国、英国では、短期間の利回りだけを考える傾向があるという印象を持ちますが、もちろん、米国の投資家においても、良い企業、良いことをする企業に投資したいと思っています。

昨今日本企業の多くのIR活動において、CSR、ESG、SDG、Sustainability等を無理やりとってつけたというものではなく、実際の事業を通して、責任を果たしているということを説明するようになりました。これは非常に良いことであり、貴社におきましても、十分ご説明されていると思いますので、このまま継続いただければと存じます。

良い事例としてUMICORE社をご紹介いたします。

参照:UMICORE社 Annual Report 2017

https://www.sustainabilityreports.be/sites/default/files/reports/ar2017fullreporten.pdf

(P8部分)

リーダーシップ

プレゼンがいくら素晴らしいとしても投資家はその内容を実行できる人間がいなければ投資はしません。会社をリードする経営陣をアピールするスライドも必要です。典型的な略歴を記載するのではなく、その人物の能力や関連している経験をハイライトすることが重要です。

また、良い事例として、Crema.coを紹介させていただきます。スライドで簡単に経営陣を紹介すると同時に、関連している経験や知識を強調しています。ちなみに、このスライドの見出しも非常に良いと思います。

想定される投資家の疑問を問う

一旦プレゼンを作り終えたら、1日あるいは数日を置いておくことをお勧めします。そして、プレゼンを読み直す際、できるだけ相手の観点から見るようにしてください。プレゼンが、相手の立場からの質問、疑問、知りたい情報に答えているのかどうか、 出来る限り客観的に評価しましょう。

不足している内容がないか、相手の立場から見て、興味の薄い情報をアピールしすぎていないか客観的にみることで、修正すべき点が見えてくると思います。

最後のスライド

プレゼンの最後のスライドを効果的に使いましょう。良い事例として、COPPER COW COFFEE社を紹介します。効果的な情報としては以下となります。

  • 連絡先と連絡の行動要請
  • 最後に強調したい情報
  • 製品やサービスのデモ 

最後のスライドに会社のロゴやキャッチコピー、空白なスライド、Thank You で終わらせるのではなく、最後の最後まで良い印象を残す機会を使います。

その他:投資家との定期的なコミュニケーション

企業価値を投資の対象としてアピールできるのはロードショーや説明会だけではありません。業績のIRリリースや一般のリリースを定期的に発行することによって、会社名の認知をしてもらいます。とくに、一般的なリリースを定期的に出すことは、貴社の成長軌道、 ビジネスモデル、市場での評価などを株主や投資家に共有することができます。

リリース以外にも、株主通信やニュースレターなどをうまく使い、会社のマーケティングツールとした資産にしていくことも可能です。

参照元

Crema.co

 

7 Key Components Of A Strong, Unforgettable Investor Presentation

https://www.forbes.com/sites/moiravetter/2017/09/14/7-key-components-of-a-strong-unforgettable-investor-presentation/#343688086d9c

 

HOW TO GET THE MOST OUT OF YOUR NON-DEAL ROADSHOW 

 

IR BEST PRACTICES: A HIGH RETURN ON NON DEAL ROADSHOW INVESTMENT

– 12 RULES OF THE ROAD

http://compassinvestorrelations.com/wp-content/uploads/2015/12/Compass-IR-12-Rules-of-the-Road-1.pdf

 

5 Impressive Presentation Tips from Lyft’s 24-Minute IPO Pitch

https://www.inc.com/carmine-gallo/5-impressive-presentation-tips-from-lyfts-24-minute-ipo-pitch.html

 

50 Best Pitch Deck Examples that Got the Investors Talking (At 500 Startups & Y Combinator)

https://www.superside.com/blog/35-best-pitch-deck-examples-2017

 

The Nuts and Bolts of Road Shows

https://www.cravath.com/files/Uploads/Documents/The%20Nuts%20and%20Bolts%20of%20Road%20Shows%20%285-502-2419%29.pdf

 

6 Reasons You Need Good Visuals in Your Presentations

https://www.echorivera.com/blog/6reasonsvisuals

 

10 Best Fonts to Use in Your Next PowerPoint Presentation

https://www.brightcarbon.com/blog/10-best-presentation-fonts/

 

CONFUSING CUSTOMER SEGMENTATION, BUYER PROFILING, AND BUYER PERSONAS HARMS MARKETING

http://www.b2bmarketingzone.com/behavior/buy/psychographic/?open-article-id=5525366&article-title=confusing-customer-segmentation–buyer-profiling–and-buyer-personas-harms-marketing&blog-domain=tonyzambito.com&blog-title=tony-zambito

 

Sequoia Capital のプレゼンひな形

 

セリフ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%AA%E3%83%95_(%E6%96%87%E5%AD%97)

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Mia Omatsuzawa 大松澤実絵

Chief Executive Officer (CEO)One World Link Inc.
英語のコミュニケーションにお悩みの方、私にご相談ください。真のコミュニケーションを、心と心のコミュニケーションの実現をご提供いたします。 担当記事:主に英語のコミュニケーション、ライティングについての記事を担当。また、価値あるグローバルな情報をいち早く日本語で皆様にお届けいたします。      mia@oneworldlink.jp  Facebook(Mia Omatsuzawa) 

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